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熱帯夜に溺れる
第5章 沈殿する夏、静止する冬
 日に日に肌寒さが増す11月第2週の金曜日、竹倉純は市内に所在する実家への道のりを車で辿っていた。
 ハンドルを操作する手がやけに重たく感じる。見慣れた風景が車窓を流れ始めると急に胃の辺りが痛くなった。

 純は実家には滅多に帰らない。年末も実家ではなく独り暮らし先のアパートで新年を迎える生活をもう何年も続けている。
 自発的に彼が実家に出向くのは年始の挨拶くらいだ。

 しかし何かの契約の書類だとか役所への手続きだとか、そうした雑多な面倒事だけは事あるごとに父も母も純に押し付ける。
 そのためこうして休日に呼び出される事態は間々《まま》あった。

 父は出掛けていて不在だった。顔を合わせずに済んで安堵した純はやはりまだ、心のどこかで父親を怖がっている。
 虐待された者が負った心の傷は簡単に癒えるものではない。

 純の実家はこの一帯では比較的大きめな戸建て住宅だ。部屋数だけは無駄にある広い家にひとりでいる母と交わした言葉は、挨拶と用事に必要な会話のみ。
 純がどんな仕事をしてどんな生活をして、日々何を思って生きているかなど、純をネグレクトした母親には興味も関心もないことだった。

 兄の仏壇には兄が幼い頃に好きだった菓子類が供えられている。兄が自殺をしたのは高校生の時で、その頃には当然そんな菓子類は好んではいなかった。
 母の時間は一体、いつの頃で止まっているのだろう。純のことは放っているくせに、死んだ兄にはいつまでも過保護な母親だ。

 用事を終わらせて帰ろうとした純は玄関先で親戚の叔母と鉢合わせてしまった。彼女は純の父親の実妹、親戚連中で彼が最も苦手とする人だった。

 叔母に会ってしまった以上は話をしないまま帰らせてくれるはずもない。
 心の中で盛大な溜息をついた純は、自《みずか》ら応接間の和室に案内して叔母をもてなした。母は叔母の来訪を告げるやいなや居間に引っ込んでしまった。

 母も義理の妹に当たるこの人の扱いが得意ではない。詮索好きの噂好き、皆が手を焼く暴れ馬の扱いが得意な人間がいるのならぜひ派遣してもらいたいものだ。
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