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熱帯夜に溺れる
第5章 沈殿する夏、静止する冬

「お子さんがいらっしゃいますよね? 小学生向けのノートを買われていましたし……」
「26歳で産めば、36には小学生の母親になってるものよ。今日は子供はジジババの家にお泊まり、旦那は会社の飲み会」
子供と夫がいる身で元彼が勤めている店に出向く彼女の行動を疑問に思うが、どこで買い物をしようと彼女の自由だ。
由貴が子供を産んだ年齢が26歳と聞いて、気付かれないように莉子は安堵の溜息を漏らした。
純と由貴が別れたのは23歳の時。26歳で産んだ子供は彼女の夫の子供であって純の子供ではない。
もしも由貴の子供が純との子供であったなら、心はもっと奈落の底に突き落とされていた。
由貴は童顔の可愛らしい顔立ちをしていた。洒落た茶髪も相まって本当の年齢を言われなければ20代にも見える。
今もこんなに可愛らしいのだから大学時代はさぞモテただろう。純は莉子を散々、面食いとからかうが、純だって面食いだ。
「私は結婚したいって言ったのよ。でも純は俺は結婚はしない、するつもりはないって言い張った。最初は結婚するには年齢が若いからだと思っていたの。だけど違った。24だろうが、25だろうが、たとえ私が30まで待っても、純は結婚してくれなかったと思う」
「どうして……?」
「莉子ちゃんは純の過去、お兄さんのことや親の話は聞いてる?」
由貴に問われて頷いた。純が家族の話をしてくれたのは最初のデートの時だけだが。
「じゃあわかるかな。純はさ、自分を虐待していた親に、恋人を会わせたくないのよ。付き合っているうちは親なんか関係ないけど、結婚となるとそうもいかない」
たまに淋しげな瞳で彼は来店する親子連れや兄弟を見つめている。家族とは純の心の非常にネガティブな闇の部分を占めている要素だと、莉子は薄々察していた。
「私も結婚してみてようやくわかった。若い莉子ちゃんにはまだ理解ができないかもしれないけどね、結婚は自分達だけの問題じゃない。絶対に、嫌でもお互いの親が関わってくる。相手の親に関わらずに結婚生活を送るのはとても難しいの」
母親が一度結婚に失敗している影響もあって、結婚をすれば無条件に幸せになれるとは限らないことだけは、幼い頃に理解はしていたものの、確かに結婚を経験していない莉子には由貴が語る結婚の真実は理解も想像も難しい。
「26歳で産めば、36には小学生の母親になってるものよ。今日は子供はジジババの家にお泊まり、旦那は会社の飲み会」
子供と夫がいる身で元彼が勤めている店に出向く彼女の行動を疑問に思うが、どこで買い物をしようと彼女の自由だ。
由貴が子供を産んだ年齢が26歳と聞いて、気付かれないように莉子は安堵の溜息を漏らした。
純と由貴が別れたのは23歳の時。26歳で産んだ子供は彼女の夫の子供であって純の子供ではない。
もしも由貴の子供が純との子供であったなら、心はもっと奈落の底に突き落とされていた。
由貴は童顔の可愛らしい顔立ちをしていた。洒落た茶髪も相まって本当の年齢を言われなければ20代にも見える。
今もこんなに可愛らしいのだから大学時代はさぞモテただろう。純は莉子を散々、面食いとからかうが、純だって面食いだ。
「私は結婚したいって言ったのよ。でも純は俺は結婚はしない、するつもりはないって言い張った。最初は結婚するには年齢が若いからだと思っていたの。だけど違った。24だろうが、25だろうが、たとえ私が30まで待っても、純は結婚してくれなかったと思う」
「どうして……?」
「莉子ちゃんは純の過去、お兄さんのことや親の話は聞いてる?」
由貴に問われて頷いた。純が家族の話をしてくれたのは最初のデートの時だけだが。
「じゃあわかるかな。純はさ、自分を虐待していた親に、恋人を会わせたくないのよ。付き合っているうちは親なんか関係ないけど、結婚となるとそうもいかない」
たまに淋しげな瞳で彼は来店する親子連れや兄弟を見つめている。家族とは純の心の非常にネガティブな闇の部分を占めている要素だと、莉子は薄々察していた。
「私も結婚してみてようやくわかった。若い莉子ちゃんにはまだ理解ができないかもしれないけどね、結婚は自分達だけの問題じゃない。絶対に、嫌でもお互いの親が関わってくる。相手の親に関わらずに結婚生活を送るのはとても難しいの」
母親が一度結婚に失敗している影響もあって、結婚をすれば無条件に幸せになれるとは限らないことだけは、幼い頃に理解はしていたものの、確かに結婚を経験していない莉子には由貴が語る結婚の真実は理解も想像も難しい。

