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熱帯夜に溺れる
第5章 沈殿する夏、静止する冬
 だましだましに別離の期限を先延ばしにしてやり過ごした10月を終え、季節は11月を迎えた。
 11月最初の土曜日にその女性《ひと》は青陽堂書店にやって来た。時刻は莉子と純の勤務が終わる30分前、17時半頃だった。

 ウェーブをかけた茶髪のボブヘアの女性が、レジカウンターに商品を差し出す。彼女の購入品は小学生対象の学習ノートが3冊と、クリアファイルのセット、花柄のメモ帳とボールペンが2本。

「いらっしゃいませ」

 会計業務をこなしつつ、莉子は女性を盗み見た。茶髪のボブヘアの女性は少なくはないが、この女性を以前もどこかで見た気がする。

(常連さんかな? 仕事終わりのOLさんもよく来るから、前にお店で見かけたことがあっても変じゃない)

「ありがとうございました」

 袋詰めした商品を女性客が受け取る際、彼女の左手薬指に指輪を見つけた。あの3冊の学習ノートは子供が使う物だろう。
 女性は莉子を一瞥しただけで、背中を向けて去っていった。

 勤務後、通路やエレベーターホールですれ違う同僚達に挨拶を告げて莉子は青陽堂を後にする。純と落ち合う場所に決めている八丁通りのいつもの公園に向かうと、長身の影の近くにその影よりも小さな人影が見えた。

 街頭の灯りの下、高さの違うふたつの人影が向かい合っている。暗がりの公園に見つけた純の顔は、莉子が今までに見たことがない闇を孕んだ表情をしていた。
 純と向かい合う人影は、先ほど莉子がレジで会計を担当したあの茶髪ボブの女性だった。

「莉子、お疲れ」

 どうしたらいいかわからず立ち尽くす莉子に気付いた純が、こっちへおいでと手招きしている。
 それで初めて莉子の存在に気付いたらしい女性が遠慮がちに純に駆け寄る莉子をまじまじと眺めた。謎の女から注がれる視線はあまり気分のいいものではなかった。

「あなた……あのお店の店員さんよね? まさか、そういう関係?」
「だったら何?」

 穏和な彼には珍しい冷たい声色に、自分に向けられていないとわかっていても無意識に莉子の身体が強張る。この女性の正体について莉子が感じた本能的な直感は当って欲しくなかった。
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