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熱帯夜に溺れる
第5章 沈殿する夏、静止する冬
 面接の形で伯母と対面して以降、莉子の就職話はトントン拍子に進んだ。母親と義父にも上京の許可は得た。

 10歳の弟は「姉ちゃん遠くに行かないで」と泣いてすがってくれた。遠くには行くけれど会えなくなるわけじゃない。
 家族や友達とは、会おうと思えば離れた場所に住んでいようと会えるものだ。どうしてそれが、恋人だと難しくなる?

 上京話が本格化していくことは嬉しくもあり複雑でもあった。旅立ちのその時まであと何度、純と一緒に過ごせる?

 就職の話は莉子と純の間では禁句だった。莉子は純の前では上京の話題は持ち出さず、純も詳細を聞きたがらない。

 ふたりはこれまでと変わらずデートを重ねて楽しい時間を過ごした。それが現実から目をそらしただけの延命行為だとしても決定的な別離の言葉をどちらも口にできなかった。
 いつか訪れるサヨナラの時を早めてしまう事態を莉子も純も恐れていたから。

 純は一度も「東京に行くな」とは言わなかった。「よかったね」と哀しげに優しく微笑むだけで、就職祝いと称して11本の赤い薔薇の花束を贈ってくれた。
 「どうして薔薇を11本にしたの?」と尋ねても純は曖昧に笑って真意を教えてはくれなかったけれど。

 「行くな」と言われても困ってしまうのに、一度も「行くな」と言わない純の態度に莉子は寂しさを感じていた。
 一度でいいから「俺の側にいろ」と言って欲しかった。永遠に側にはいられないと、わかっていても。
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