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爛れる月面
第2章 湿りの海
 叫んだ瞬間、真後ろから貫かれた。立位よりも俄然硬度を増して、媚肉の奥の奥まで割り広げてくる。

(徹っ……)

 大半が色変わりして緩衝マットの色味まで浮き出ているシーツに突っ伏し、仄かな匂いのする濡れ床に額づいた後ろ姿で、尻肌を派手に鳴らされる。肉塊が引いた拍子に、また脚の間にしぶきが散った。意図的に動かすことも、止めることもできず、常に襞壁がうねりっぱなしだ。達しろ、という旨を、頗る横柄な言葉遣いで背中に言い放たれると、もはや拒絶ができなかった。もう、拒もうと思っても拒めるものではないから、拒むことなく──

「うあぁっ!!」

 何度味わっても減衰することのない法悦が、脳を白ませた。直後に体の中で肉幹が暴れ、先端から夥しい粘液を軟蓋へと放ってくる。もう何度目かしれない、汚辱の感触。最後の一滴まで漏らさず注いだ井上がヒップを離すや、紅美子は横向けに崩れ落ちた。ベットの上で間歇的に四肢を攣らせていると、余勢に蠢く肉壺から洩れた白濁がももの丸みを伝って垂れていく。

 そのまま、どれくらい経ったのか、顔の前に何かが置かれると、紅美子は虚ろな目を開いた。置かれた箱の向こう側に焦点を合わせると、全裸の井上が瓶をラッパ飲みしている。

「……。それ……、お酒?」

 セックスにしても、凌辱にしても、終わった後、女が男へまず最初に言うべきセリフではなかった。

「いや、ただの炭酸だ。飲むか?」
「……要らない」

 抱いたあと、添い寝をし、髪を撫で、悦を交わした相手と余韻に浸る──なんてことは、井上には一切ない。吐精するとすぐに起き上がり、離れていく。仁王立ちで瓶を傾ける井上の股間では、あれだけ突き回した兇器が、一切の興味を失ったように大人しく床を向いていた。
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