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爛れる月面
第2章 湿りの海
「やっ……、み、見るな……」

 大股開きの支点を手で隠したかったが、硬くはない肉床の上でヒップのみでバランスを取るためには、肩の手を外すわけにはいかなかった。

「よく見える。君も見てみろ」
「……見るか……」
「今日もいい顔してる。殺されそうな目だ」

 不気味な光を帯びた眼が、体の上でフラついている紅美子を見据えてくる。

「こ、殺してやりたい……」
「実際、殺そうとしたろ」
「こんな、ことして……、いつかっ……、殺してやる、から……」
「それは楽しみだ。……だが、今はしっかりつかまっとけ」

 井上は少し前に屈んで勢いをつけると、紅美子を抱えたまま膝立ちとなった。腹筋を襲う負担に、慌てて首にしがみつく。ベッドの上なのだから、後倒してもよかったんだと気づくも遅く、浮いた体を下から支えるたった一本の柱が、嫌でも如実に意識されてしまう。

「動くぞ」
「や、やめ──」

 ふっと身が浮き、重力に引かれて落ちた先で待ち受けていた腰に叩かれた。正確には、それより先に奥壁に肉先が当たり、子宮を歪めるほど圧し上げた。また、浮かされる。髪を振り乱してかぶりを振るが、容赦なく落とされる。騎乗位とはまた違い、この世界にいる限り決して背くことはできない摂理を前にして、無抵抗に等しい股ぐらを抉られている。そもそもさっきの騎乗位であっても、交接の主導権を与えられてはいなかった。いわんやこの体位では為されるがまま、やがて腕に持ち上げられているというよりは、下から腰に弾ね上げられているほうが正しい速さにまで間隔が狭められていく。

「どうだ……? これはさすがに、徹くんには、無理だろ」

 さしもの井上も息が切れていた。名を聞いているだけで、徹の体格まで知らないはずの井上なのに、まったく正鵠を得ていた。徹に、こんな荒々しい交接は不可能である。
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