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爛れる月面
第2章 湿りの海
「だいぶん中の動きがマシなってきたな」
「んな、こと……、い、いちいち、言わなく、ても……、いいっての」

 鼻にかかった声音には、苛立ちの濁りも含まれていた。なのに、有無を言わさず身を揺すられると、リズムを合わせて膝を屈伸してしまう。拳くらいに思える肉塊が体内で往来を繰り返し、真下から力強く内身を擦ってくる。

「もっと腰を使え。そんなんじゃ徹くんに飽きられるぞ。好きなんだろどうせ。君に馬乗りになられるのが」
「っ……」
 ともすれば喉笛を晒してしまう顎を懸命に引き、「……そ、そうだよ。と、徹と、だと、もっと気持ちいい、けどね……」

 そう言ってのけるが、口髭は嘲りに歪み、

「君が気持ちいいからって、徹くんもそうだとは限らないだろ」
「んっ……、そんなことないっ。……わ、わかるよ、それくらい……」
「じゃ、もっと悦ぶようにしてやれ」
「ふぁっ……!」

 会話によって単調になりつつあったリズムが崩された。促されるがまま、腰が上下だけでなく、前後にも動いてしまう。

「うまいじゃないか。君は運動は好きそうだな。このクビレだ。相当鍛えてるんだろう」
「っ……、セク、ハラ、すんな……」
「褒めてるんだ」

 はしたなく翻弄される腰を押し留めることはせず、

「……いつも、ほめられてる、から、べつに嬉しく、ない……。大好きだもん、徹。わたしの、カラダ……んんっ!」

 そう嘯くと、ドクンッ──地響きのように、胎内で肉茎が大きく弾ねた。射精が始まったのかと思わせるほどの脈動だったが、次はなく、何事もなかったかのように腰に合わせてピストンをしている。

「そいつは良かったな」

 地を這うように一層トーンが落とされると、膝裏を掴まれ、持ち上げられた。両側に広げられた脚を折り曲げても踵はどこにもつかず、突き刺さる肉茎が唯一の軸受けとなって、三百六十度どこに傾いても内壁に擦れてくる。
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