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爛れる月面
第2章 湿りの海
 怒りは、目の前の男にのみ、向けられたものではなかった。むしろ指輪の贈り主のことを、いっときでも忘れていた女へのものが大半だった。肉を裂き、骨を砕くほど、左の薬指が締め付けられていく。とっさに外そうと右手をかけると、両の手首が掴まれて、容赦のない力で引っ張られた。最奥を肉先が抉る。唇が捲れるまで歯を噛み合わせ、悔しさと狂おしさがないまぜとなった眼色で井上を睨みつけると、

「その目だ。やっぱり、そっちの目のほうがずっといいね」

 部屋の灯りが戻され、二人のいる周りのシーツには夥しい濡れ染みが広がっているのを暴かれた。身を捻って逃れようとしたが、井上は軽々と二の腕を両側を掴んで制圧し、紅美子の為したものよりも数段強烈な、凶々しい眼光で顔を刺す。

「特別サービスは終わりだ。約束は果たしてもらう」
「んっ……、やめ、て……」
「ここからは僕のほうが楽しませてもらう。もっとも、君はソソられるカラダをしているくせに、女としては未熟すぎるがな」
「ふざ、けたこと、言うな……」
「自分勝手にイキまくってたのは君だ。持ってきてくれたプレゼント、使ってないぞ。もしかしてそれすら気づいてないのか?」
「……っ!!」

 愕然とするのを見逃さず、押し倒された。強烈な一打が脳天を突き抜け、その後も斟酌なく肉茎が中を抉る。

「さっきよりいい動きだ。どうやら君はこういう風に抱かれるほうが好きらしい」
「うっ、く……、ちが……」
「徹くんじゃ、こうはいかないだろ?」
「っ……、聞き、たく……」
「おっと、泣くのは帰ってからにしろ」

 抽送の速度が上がっていく。
 肉茎が体を擦っている──何も身につけていない肉茎が、また。
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