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爛れる月面
第2章 湿りの海
 キスの狭間で叫んだ。

 みたび、進入してきたのは、指でも舌でもなかった。最も肉枠を広げられ、最も肉壁を擦られて、洞内がのたうち回っている。肉塊が、無駄な滞りなく前後する。指や舌に比べたら、緩慢な動きだ。だが、もたらされる快美は圧倒的で、体の内側のすべてで引き搾らずにはいられない。

「ね……、……ねえっ」

 高波の迫る速さもまた、指と舌の比では無かった。紅美子は薄闇の中で鈍く光る双眸を見つめ、必要もないのに首を横に振って訴えた。

「このままイッたらいい」

 井上が腰を早める。ただ前後するだけではなく、深度角度を変えてくる。

「だ、だって……」
「これでどうだ」
 太ももをいっぱいにまで広げられると、奥地を更に一歩進んだ肉幹が、紅美子の逡巡を蹴散らした。「……イキたいんだろ?」

 血の気が引いたように昏んだが、肉先に打突され、渇望に導かれるままに、

「い、いく──」

 告げる必要のない言葉が口から出たが直後、凄まじい波に呑まれた。何回目か知れないのに、最も高く、渦が強い。逃し慣れていない痙攣を繰り返す体を抱き締められて、逞しい上躯へ素直に腕を回した。絶頂しながらのキスは、脳が蕩け落ちそうだった。

 吸い合ったまま、上半身を起こされる。

「ぐっ……!」

 紅美子が呻いたのは、体位が変わったことで、亀頭に軟蓋を圧し上げられたからではなかった。

「返しておくよ」

 ボトリと薬指が腐り落ちてしまいそうな、熱く痛い金枷が、根を締めつけていた。
 左手を拳にして、蒼ざめていた紅美子だったが、

「なんで……」
 ゆっくり、正面の井上を向くと、「なんでっ、いま返すんだよ!!」

 井上の胸に強く打ちつけた。
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