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爛れる月面
第2章 湿りの海
「もう、やめて……」

 睫毛に溜まっていた雫が、俯いた紅美子から井上の額に落ちた。

 初めて、井上の眉間に皺が寄った。
 脚の間から出てきて、立ち上がる。

「……泣かれると、とたんにつまらなくなる」

 不機嫌そうにトイレットペーパーを絡めとって指を拭う。

「指輪、返して……」
 紅美子は姦辱を受けていた時そのままに、中途半端に脚を開いて壁に背をついたまま、「もう、来ないで」
「要求はいっぺんに二つするもんじゃない」

 乱された髪を手櫛で整えた井上に片足を持ち上げられると、肩につかまるしかなかった。開いた脚の間に、取り出された灼熱の肉先が押し付けられる。

「お、お願い……、指輪、返してよ……、おね……、んっ」

 嗚咽寸前の唇を塞がれた。髭が鼻先に当たる。
 声を封じた状態で、またしても、肉茎が侵入をしてくる。

「返してっ……」

 唇が離れても、悲叫せず息混じりに頼む紅美子に、井上は額を合わせ、

「今夜取りに来たらいい。同じホテルに泊まってる」
「なんでよ……、早く返して」
「今は持ってない」
「ウソ、ついた……、の」
「持ってるなんて一言も言ってないし、訊かれてもない」
「ウソついて、こんなことし……、んっ!」

 死角から腰を使い、最奥を圧迫された。

「来るね?」
「い、行かない……。どうせまた……」
「ああ、もちろん抱く」
「行くわけ……、ない……」
「いいや、君は来るね。婚約者にもらった、大事な大事な指輪だから」
「んぐっ……!」

 肉幹が、体の中で強く脈動した。

「それともここで、少し場慣らしでもしとくか?」
「……」
「来るね?」
「……」
「はっきりしろ」
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