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爛れる月面
第2章 湿りの海

ゆっくりとメイクをしながら、
『わかった。早田の連絡先、きいてたら教えてもらえる?』
と紗友美に返信する。ほどなくして、『すみませんです』という文言とともに、番号が送られてきた。ようやくに準備を終えて家を出、いつもの通勤ルートを歩きながら、まずは会社に電話した。遅れる旨を伝え、切ったに続けて入手した番号へとかける。
「はい──」
「私。……長谷だけど」
見知らぬ電話番号だったからだろう、早田は無愛想な声だったが、
「おお、誰かと思ったぜ。あれ? 番号、言ってたっけ?」
名乗るとすぐに口調を切り替えた。背後からは、すでに動き始めている街の喧騒が聞こえてきている。
「光本さんに聞いたの。ちょっと用があって」
「そりゃタイミングよかったな。もうすぐ商談に入るとこだから、しばらくは携帯出れなくなるとこだった。何?」
「仕事中悪いんだけど……、井上さん、いる?」
「……」早田は少し間を置いた。「……いや、今日は別行動なんだ」
「そう。連絡先教えてもらえる?」
紅美子が赤信号で止まると、六号線を多くの車が行き交い始めた。ダンプが通るとうるさくて、電話の声が聞き取りづらくなったが、聞こえていないわけではなかった。早田がずっと、何も言わないのだ。
「もしもし?」
「……あ、いや、マネージャに何の用?」
昨日のことを糾弾する──いっそ早田も巻き込んでしまいたい衝動を押しとどめ、
「昨日のお金、払わなきゃと思って」
「なんだよ、そんなのいいって」
「そんなのいいとか、あんたが決めることじゃないでしょ」
「受け取らないよ。あの人は」
「それでも教えて。何にもなしにこのまま、っていうんじゃ私の気が済まない」
「……」
歩きながら話しているからだろうか、またも変な無音が置かれたが、「……、ショートメールで送っておくよ」
「よろしく。じゃあね」
「……おい」
「なに?」
『わかった。早田の連絡先、きいてたら教えてもらえる?』
と紗友美に返信する。ほどなくして、『すみませんです』という文言とともに、番号が送られてきた。ようやくに準備を終えて家を出、いつもの通勤ルートを歩きながら、まずは会社に電話した。遅れる旨を伝え、切ったに続けて入手した番号へとかける。
「はい──」
「私。……長谷だけど」
見知らぬ電話番号だったからだろう、早田は無愛想な声だったが、
「おお、誰かと思ったぜ。あれ? 番号、言ってたっけ?」
名乗るとすぐに口調を切り替えた。背後からは、すでに動き始めている街の喧騒が聞こえてきている。
「光本さんに聞いたの。ちょっと用があって」
「そりゃタイミングよかったな。もうすぐ商談に入るとこだから、しばらくは携帯出れなくなるとこだった。何?」
「仕事中悪いんだけど……、井上さん、いる?」
「……」早田は少し間を置いた。「……いや、今日は別行動なんだ」
「そう。連絡先教えてもらえる?」
紅美子が赤信号で止まると、六号線を多くの車が行き交い始めた。ダンプが通るとうるさくて、電話の声が聞き取りづらくなったが、聞こえていないわけではなかった。早田がずっと、何も言わないのだ。
「もしもし?」
「……あ、いや、マネージャに何の用?」
昨日のことを糾弾する──いっそ早田も巻き込んでしまいたい衝動を押しとどめ、
「昨日のお金、払わなきゃと思って」
「なんだよ、そんなのいいって」
「そんなのいいとか、あんたが決めることじゃないでしょ」
「受け取らないよ。あの人は」
「それでも教えて。何にもなしにこのまま、っていうんじゃ私の気が済まない」
「……」
歩きながら話しているからだろうか、またも変な無音が置かれたが、「……、ショートメールで送っておくよ」
「よろしく。じゃあね」
「……おい」
「なに?」

