この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
爛れる月面
第2章 湿りの海


 届いたメッセージは、紅美子に溜息をつかせなかった。

『ほんとごめんなさい! 昼から行けたら行きます!』

 紗友美の「行けたら行きます」は大抵来ない。
 できれば、今日は彼女とは顔を合わせたくない、と思っていた。

 昨晩家に辿り着くや、酒の入っていた母が自分よりも遅く帰って来た娘に対し、ただでさえ婚約者と離れて暮らしているのに、ふらふら夜歩きなんかするんじゃない、と苦言をぶつけてきた。何も知らないくせに──反駁が口を衝いても良さそうなものなのに、出てはこなかった。あの夏の朝、娘に口走ってしまったことを、母は知らない。

 素直に謝って母を驚かせ、これ以上話していると驚かせるだけでは済まなくなりそうで、娘の不自然な髪に気づいていないうちに脱衣所へと逃げた。洗面台の鏡の前で、頬へ垂らしていた髪を脇に除ける。こめかみの辺りが凝っている。紅美子は古皮を剥ぐように衣服を脱ぎ捨てて、再び鏡の中の全身を眺め見た。見ただけではわからない。徹がいつも褒めてくれている通りなのかもしれない。だが、いまだ肉体の中心には、脈動で跳ねる劣欲の塊と流れ出てきた粘液の感触が、烙き付けられたかのように居残っている。

 シャワーを浴びて床に入っても、目を瞑っただけと言える眠りだった。起きぬけから全身が気怠く、何をしてものろく、いつも家を出る時間になっても、まだ出勤準備にも手をつけられていなかったところへ、紗友美からのメッセージが届いたのだった。

 紗友美は会社に来ない。今時期に回ってくる伝票の量を想像する。どうせいつ切られるかもわからない派遣なのだから、責任を感じて無理することはないと思いながらも、このまま家に居り続けるのはあまりにも危険だった。
/254ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ