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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
 集めた髪を後ろに纏めつつ、

「それにしても、徹が手こずってるなんて珍しいね。昔から勉強は何でもチョイチョイってやっつけちゃってたのに」
「この前の選考の後、研究グループが細かく分かれたんだけど……、新しい指導員の人、成果物に対するチェックが厳しいんだ」
「へー。まさかイジメられてんの?」
「そんなことないよ。指摘はもっともだし、俺なんかよりずっと知識も経験もある。厳しいけど、そういう人の方がきっと勉強になる」
「ドMの徹らしいや」

 笑ってポニーテールにした首の後ろでエプロンの肩紐のリボンを作り、部屋の端に置かれていた姿見で布位置を確認しながら腰も結ぶ。

「……ね、なんかミニにエプロンってちょっとエロくない? 下、なんも履いてないように見える」

 徹のほうを向き、腰に両手を当てて披露した。寒さをおして徹のために履いてきた、脚をあらかた見せてしまう千鳥柄のタイトミニは、もちろん外では他の男の目に触れないようにコートで膝まで隠してやったが、裾が絶妙な位置のエプロンだと脚だけを大胆に覗かせていた。

「……。……そんなことないよ、とてもキレイだよ」
「なんかいま変な間があったけど?」
「ごめん。本当は、ちょっと気になる」
「これを狙ってたの? じゃ、裸エプロンにしてあげよっか?」
「いや、狙ってたわけじゃないよ」

 徹が曖昧に笑った。

「たしかに、お尻出して料理しちゃダメだよねー」
 まんざらでもないようだったので、つい悪ノリをしてしまい、「でも、してほしいならするよ。結婚してからさ、徹が帰ってきて、私が裸エプロンで迎えるの。ご飯にする? お風呂にする? それともー、って」
「……」
「徹なら一択だな」
「うん……」
「……ほら、仕事は?」
「休憩……」
「じゃ、休憩しててください」

 紅美子は徹に背を向けて台所へ向かうと、袋の中から買ったものを取り出し始めた。

 背後に気配を感じる。エプロンの上から腰を抱かれ、体を密着される。

「……ま、ごめんなさい。こうなっちゃうって気づいたのは、結構最後のほうでした」
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