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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
 自転車でずいぶんと走ったところにあった、東京では見たことも聞いたこともない、地元密着感が半端ないスーパーで買い物をした帰りだった。前に載せたビニール袋からはみ出る長ネギを落とさないよう気をつけ、寒風に髪を靡かせて耳を凍えさせながらも、こういうのも悪くはないな、と紅美子は思った。生鮮食品売り場では、分厚い前掛に長靴、ねじり鉢巻きのオジサンに、「そこの若奥さん、今日旦那にお刺身どう?」とダミ声をかけられた。買い物かごを肘にかけ、頬を爪でトントン叩いて考える。で、悩んだ末、お財布事情を鑑みて結局買わない。その様子を自ら俯瞰し、遠くはない将来の日常だと思うと、田園の中で一人、口元が緩んだ。

 駅まで徹が迎えに来て、バスに乗ってアパートにやってきたら、机の上にはノートパソコンが開き、書籍や書類が角は揃っていても向きがバラバラに積み上げられていた。整理整頓ができる徹には明らかな違和感。二人きりになってさっそく絡みついてくるのを焦らして詰問し、月曜日までに仕上げるべき報告書が実はまだ完成していないことを吐かせた。紅美子が帰ってからでも徹夜で仕上げれば間に合う、という到底許可できない主張を却下し、できてないのにできたって言ったらダメだよ、と釘も刺したから、徹は一分一秒でも早く終わらせようと全力を傾けているだろう。そのあいだに夕食を作ってやるために、自転車を借りて買い物へと繰り出したのだった。

 最後の坂道は降りて押し、どこまでが庭でどこからが置き場かわからない砂利の上に自転車を駐め、ロングブーツの底を鳴らして鉄階段を駆け登る。

「おかえり。寒かったでしょ」

 玄関を開けると、机からやってきた徹が買い物袋を受け取ってくれた。

「寒っ、なんなの、栃木!」
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