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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
「どうしたの? クリーニング屋さんの人たちと晩御飯食べてくるって言ってたよね」
「うん……、えっと、みんなすっごい、飲むからさ。最後まで付き合ってたら危ないと思って、帰ってきちゃった」
「そうだったんだ。……クミちゃん、気分悪いの? 息が苦しそう」

 髪を梳き、指に絡めながら、耳の縁から首すじをなぞってくる。目で訴えようとすると、猛烈な邪淫の眼差しを浴びて竦んだ。

「ううん、……大丈夫だよ……っ!」

 いったん手首が捻られて耳から携帯が離れ、シーツに伏せられた。
 逆の耳を髭が擦り、耳朶を舌先に弄われつつ、

「早くしろ」

 低い声が鼓膜を震わせる。

「クミちゃん? ごそごそしか聞こえない。大丈夫?」
「……ううん、大丈夫。……ちがうの」
「ん?」

 胸膜を破り裂かれそうになりながら、

「……徹、いま、何……してた?」
「うん? 本読んでた」
「そ。……もう、……した?」
「え、何を?」
「自分で。……した?」
「……う、ううん。まだ……」

 耳に息が吹きかかる。面白がっているのか、嘲っているのか、しかしとても隣を向いて確認することはできない。

「ま、まだ、ってことは、これから、するの?」
「えっ、いや……、それは……」
「私はね、帰ってきて、家に、ひとり」
 ひとり、と言ったとき、上ずって呻きを上げそうになったが、「……でね、布団で、寝ころんで、……徹のこと、考えてた」
「うん……」
「そんでね、……すごく、会いたくなってきて……、その……、っ……!」

 手首が取られ、ヘアの上に置かれる。大きな手が後ろを取ってきて、中指を秘裂に沿わせてくる。両側の畝はまだ全く乾いておらず、指先に細かな汁撥ねを感じた。

 井上が甲から去っても、紅美子の手は離れなかった。
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