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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
「そうだね。奴はなかなか見込みがある。変に日本人的でなく、発想が柔らかい。新卒でウチに入るだけあってココも優秀だしね」
 井上が人差し指で自分の頭を突ついて見せたから、取り越し苦労で良かったのだが、「何より、久しぶりに会った君みたいな美人にフォローを入れてもらえるあたり、なかなかの人望だ」

 また、臆面もなく「美人」という言葉を織り込んで、付け足された。スリーピースのスーツとハイカラーのシャツを着こなし、柵に手をかけ、もう一方の手はポケットに入っている。ビル風を浴びつつ隅田川を上っていく船に目を細めている立ち姿が、実に様になっている。

 だが、美人と讃えてもらっていながらも、フォローを入れてやったことを見透かされ、しかも「君」などと気取った呼ばれれ方をされたことが鼻について、あまり長話をしたくなく、

「あの、ここは風が強いですから、中で吸われてはいかがでしょうか。ご案内いたします」

 社長室に連れて行ってしまおうと思った。

「いや、僕はタバコを吸わないよ。正確には、やめたんだ」

 じゃ何しに来たんだよ、というツッコミを飲み込み、立ち去る別の口実を探そうとしていると、

「君もタバコはやめたらどうだい? 美容の大敵だ」

 また、君呼ばわり。いいかげん、嫌になってきて、

「これ以上美しくなったら、彼氏が不安がりますから」

 衝動的にそう返してしまうと、井上は声を上げて笑った。

「確かに彼氏は心配だ。薬指の男除けも効かないね」
「……」

 まさか指輪の意味まで見透かしてくるとは思わなかったから、二の句を継げずにいたら、

「ところで今晩、飲みにいかない?」

 と、信じがたい言葉をかけられた。

 なんだコイツ、取引先に来てナンパか? 世界企業だからって下町の工場の女子社員くらいチョロいと思ってんだ。

 仕事中に男に誘われたことはある。だが皆、紅美子がたちまちに発する排除オーラに気押されて、言葉を選び選び誘ってくるも、最終的にはすごすごと退散していった。ここまで露骨に誘われたのは初めてといっていい。

「生憎ですが、取引先の方との個別の親睦は会社で禁止されておりますので」

 ギリギリ踏みとどまった紅美子が、溢れくる罵倒を職場言葉に無理やり翻訳して弾ねつけると、
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