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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
『今、うちの会社に来てバッタリ会った』
『そうなんだ。もちろん仕事でだよね』
『バドゥル・インターナショナルだってさ』
『すごい!』
『そんなにすごいの?』
『普通の就活で入れるような企業じゃないよ』『すごいなぁ。早田くん、人気あったし、人から好かれたし、面白いし』『そんな会社に入れるのも何だか分かる気がする』

 思ってた以上の早田の肩書きに感心するも、徹の絶賛が気に入らなくなってきて、

『徹のほうが、すごいじゃん』
『研究所に来たら、俺くらいなのは普通にいるよ』

 その返信にも眉を顰め、煙を画面に向かって噴きつけた。

『すごいよ徹は』
『??』
『私のダンナになるほどの男ですよ?』

 即返信が滞る。
 悦びに打ち震えている姿を想像して笑みを漏らしつつ、『サボってないで仕事して』と連続で送信した。

「楽しそうだね」

 急に声をかけられて叫びそうになった。さっき応接で聞いた、風が強く吹く中でも聞こえてくる低い声。隣を見やると、かなり近くまで来ていたのに全く気づいていなかった。

「ああ、いいね。なかなかの眺めだ」

 仰け反らなければ全貌が見えないほどのスカイツリーを眩しそうに見上げている。たしか、井上といったか。

 紅美子はいつもは水を張ったペンキバケツに投げ捨てるのを、わざわざ膝を揃えて屈み、水面を突くように消して、その隙に聞こえないよう咳ばらいをした。声のトーンに気をつけ、

「ありがとうございます」

(スカイツリー見えるからって私がお礼言うのも変か。……ま、いいや)

 違和感を感じながらも、立ち去る契機としての一礼を付す。

「ウチの早田と同級生らしいね」

 しかし残念ながら、顔を上げたところで会話を繋がれてしまった。

「……はい。早田さんとは中学が同じでした」
「あいつは昔からあんな感じかな?」

 井上が言う「あんな感じ」とは、おそらくはあの物怖じしない人懐っこさのことだろうと思い、はい、と一言だけで答えた。すると井上は笑いを噛みながら、だろうね、とだけ言った。しまった、おそらく井上は早田の上司だ。変な印象を与えて評価に関わってしまったら可哀想に思い、

「頭は良かったですし、生徒会長でした。人望もすごくありました」

 と、多少不格好ながらも、フォローを入れてやった。
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