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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 言う人間によってはドセクハラだったが、男が言うと妙に自然だった。美しいと褒められたのはいいが、どこでも言い慣れてるからだろうな、と紅美子は背を伸ばしつつ、もう一度高めの声を意識して、ありがとうございます、とだけ言った。ただし正社員じゃないですけどね、と、コレは声を出さずに社長の禿頭を見下ろしてから出口へと向かう。

「まあ、へへ……、確かにウチは女子社員は多いですなぁ。しかしバドゥルさんに比べたら優秀な社員はなかなか。ましてや井上さんのようなスーパービジネスマンなんてそうそうおりませんよ──」

 スーパービジネスマンてダサすぎだろ、と思いながら一礼してドアを閉める。しかし背中で聞いた言葉の中では、そのダサい呼称よりも社名のほうが気になった。毎日様々な伝票を扱っていると、企業名にはそれなりに詳しくなる。世界的なエレクトロニクス企業であるバドゥル・インターナショナルは、さすがに紅美子の働く尾形精機の取引先としては見たことがなかったが、いつか社長が、この部品は海外の現場でもどうのこうの、と自慢していたとき、バドゥルの名前を口にした気がする。当然、間に何社か挟んでの取引だったろうが、もしかしたら直接受注の話でもきているのかもしれない。やったじゃん社長、ついでに派遣料も上げてくれ。

「……っと、失礼っ」

 そんなことを考えて歩いていたから、トイレのドアが開いて出てきた人物を避け切ることができず、肩が少しぶつかり、脇に挟んでいたお盆を落としてしまった。

「こちらこそ大変失礼いたしました」

 膝を折ろうとしたが、相手のほうが先にお盆を拾ってくれる。空席はこの男だったらしい、応接室の中の男と同じく身装が良く、盆を手に立ち上がった背も高い。差し出されて受け取り、ありがとうございます、ともう一度お辞儀をして顔を上げると、中の男よりも若く、体躯もよかった。短く刈り込んだ髪、スポーツ灼けだろうか、色黒だ。仕事中は外しているらしいピアスホールが耳たぶに見える。いまは申し訳なさそうにしているが、普段は絶対チャラそうだよな、と結論を下して回れ右をしたところで、

「……長谷?」

 と呼びかけられた。首から下げていたストラップの名札は、ぶつかった拍子に裏返っていた。何故わかったんだろうと振り返ると、神妙だった男の顔が綻んでいた。
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