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Memory of Night 2
第50章 episode of 0

「そうか、神谷くんのタイプだったのかい?」
「あ、いえ、そそんな滅相もないですよ」
自分のような男が、彼女のように美しい女性をそんなふうに考えることすらおこがましい。そう続けようとして思いとどめた。
あまりに卑屈すぎる。
「私にもファックスで送ってもらえるかな、その履歴書」
「は、はい!」
確かに、ここで長々自分が説明するより、そうした方が早かった。
忙しい社長の手を煩わせてしまった。
秋広は急いでファックスを準備した。
「気がつかず、すみません……」
「いやいや、大丈夫だよ。面白い話が聞けた。免許があるなら、車もあるのかな。最初は彼女のアパートから近い場所で様子を……」
電話越しに機械音。ファックスが届いたらしい。
社長が履歴書を見ているのか、沈黙があった。
「……本当に、美しい女性だね」
ため息のような声で、社長が呟く。
はっと息を呑むような感覚を、秋広も先ほど味わったばかりだ。事務所のドアが開き、初めてその姿を見た時、秋広も同じように息を呑んだ。
タイプや好みではなく、彼女の造形そのものが美しかった。まるで精巧な人形のように。
「どうしてうちで働きたいんだろうね。この子なら、もっといろんな選択肢(みち)があるだろうにね」
「……なぜでしょう、ね」
なぜ東北から関東(こっち)へ来たのか。うちで働きたいのか。
「ーーま、あまり詮索するのはね。とはいえ、野郎ばっかの職場だしね、神谷くん、彼女をよろしくね」
「は、はい」
よろしくね、というのはもちろん仕事のことでだとわかっていたが、なんとなく照れくさい気がした。
安全靴や作業着など、働いてもらう準備もある。
通話を切り、秋広はせっせと採用のための契約書類の用意を始めた。

