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Memory of Night 2
第50章 episode of 0

「あ、あの……」
雑居ビルの三階の隅の六畳ほどの事務所で面接を行っていた神谷秋広(かみやあきひろ)は、困っていた。
半年ほど前に、ここの部署に移動になったばかりだった。地元の工業高校卒業後に建設業に就職した秋広だったが、予想していた以上に業務内容はハードだった。夏は暑く、冬は寒い。天候によってはできない作業もあり、工期が迫れば休日出勤は当たり前。日が上ると同時に集合させられ、たった一時間にも満たない休憩のみで、真っ暗になるまで作業が続く日もあった。体調を崩して休みの連絡を入れれば、受話器越しに使えねえと吐き捨てられた。
そのたびに落ち込みはしたが、それでも何ヵ月も同じ現場、メンバーで仕事をしていると、秋広の人柄を評価してくれる者は多く現れた。
真面目で、誠実。そして、素直。むしろそこしか取り柄がなかったと言っても過言ではなかった。腕っぷしも強いわけではないし、要領も悪く、不器用。おまけに頭も悪い。体もあまり強くなく、冬は毎年何かしらのウイルスにかかってしまう。
過酷な外仕事には向いていないだろう。
それでも秋広は、よくしてくれる仲間を好いていたし、勤め続けていれば体も強くなっていくだろうと思い、建築業を辞めなかった。

