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Memory of Night 2
第47章 春の訪れ

千鶴の話の中の祖父母は、ずいぶんと頑固で昭和的な価値観を持っていた。工場の経営をやめたことで、背負いこんでいた肩の荷が下りたのかもしれない。
宵はしばらく、窓の外の景色を眺めていた。そうしながら顔すら知らない母方の祖父母のことを考える。
もう居ないと思っていた血縁者であり、母のーー桃華の父と母。彼女が生まれ育った故郷。
全部、興味はあった。
「ーーいつか、行ってみたいとは思うけど、今はいい」
「そうかーーそうだな」
千鶴は微かに笑った。
「おまえも晃も大学生活が始まるし、環境が変わるタイミングで忙しいか。晃ともすぐ遠距離になるだろ? ーー離れる前にいっぱいヤッてる?」
「…………キショ」
千鶴にとっては、なんら日常の話題と変わらない感覚なのだろうが、そんな生々しい話他人にしたくはない。ましてや血縁者だと知ったらなおさら嫌だった。
千鶴は盛大に笑った。
赤いスポーツカーは、ナビ通りに進んでいく。気付いたら信号のない田んぼばかりのずいぶんな田舎道だった。
「まだ?」
「まだまだ。もっと山入ってくよ」
宵は去年の夏に行ったきりだった両親の墓を頭に浮かべる。そこはもっと坂の多い山道なのだった。

