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哀色夜伽草紙
第9章 残酷な私
イルカのショーも見終わり、併設されたカフェに向かう道すがら、その美しさにやや興奮しながら二人で話をしていると、ピタリと羽田くんの足が止まった。

「どうしたの?」

不思議に思って羽田くんの視線の先を見ると……壱くんが元山さんと一緒に歩いている所が見えた。

ブルーのシャツに黒い細身のパンツを穿いて、前髪を上げた壱くんは、私と居た時よりお洒落で、腕に寄りかかる彼女をとても甘い顔をして見ているその姿は、どこからどう見ても仲の良い恋人同士で……

そこに私が入り込む余地なんて無かった。
私が離れただなんて、気に止むこと無かったのだ。

羽田くんの言うとおり、私は壱くんのことをよく知らない。

壱くんが私に与えくれる情報でしか、壱くんを知らなかったのだ。

壱くんは私ではなくたって、きっと『貴女は運命の人だ』と相手に言える人なのだ。

そう思ったら、急激に心が冷えていく。

(私なんて必要なかった……)

「琴莉?」

「ん?」

羽田くんが心配そうに顔を覗き込んできたので笑ってみせる。

「大丈夫?」

「うん」

こんなの哀しみじゃない。

やはり初めから、私と壱くんは結ばれないのが運命で、期間限定の箱庭の中でお互いを愛し合うフリをした単なる駒。

駒同士の身の寄せ合いだったのだ。

その考えに虚しいと同時に安堵もしていた。

「ふふ……」

思わず訳のわからない笑い声が口から漏れて、ポタポタと手に水滴が落ちる

(え?)

「あ……」

羽田くんがポケットを探る動作をして、慌ててスッとハンカチが出してきた。

そのキザとも思える仕草が今は嬉しかった。

「大丈夫?」

「ありがとう大丈夫「じゃないだろ……」

羽田くんは私をくるりと回転させ、自分の胸に押し付けるようにして抱き締めてくれた。

「相変わらず泣き虫だな琴莉は……それが可愛らしいけど」

「泣き虫じゃないもん」

拗ねると頭を撫でられた。

「ふふふ、ね、帰ろう」

「うん……」

その後確認はしなかったけれど、壱くんは幸せなのだろう。

私とは違う何の愁いもない人と、どうかお幸せに

でも今はまだ、お祝いできる気分ではなかった……

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