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哀色夜伽草紙
第7章 幻と現実

仕事での一泊なので、着替えは少ないし、重いのは仕事の分厚い資料とタブレットだった。
小さめのボストンバッグ1つと携帯用の小さなショルダーバッグだけ。それらを担いでドアの前に立っていると、向かう電車の中でトンと肩を叩かれた。
「お早うございます」
「あ、羽田くんお早う。早いのね?」
「こちらでは新人ですから」
ふわりと柔らかい笑顔で答える羽田くん。
今の彼からはあのゾクッとする暗さも色気も微塵も感じない。柔らかそうな人に見える。
「あちらについたらすぐに打ち合わせみたいだから飛行機の中ではしっかり予習しないとね?」
「ええ。開発ではオレは出張とかなかったんで、ちょっとドキドキします」
なんて僅かに頬を緩めただけの無表情で羽田くんは言った。
揺れる車内で他愛も無い話をしていると、こんな風にしている分には柔らかいのに、なぜたまに怖いのかと横顔を盗み見て考えてしまうのだ。
ついた先は札幌駅周辺。駅から外に出れば東京よりも空気が冷たいのがわかる。
秋の街を行けば風は冷たいが、観光客とすれ違う度に見えるその心から幸せそうな笑顔に心が温かくなる。
それと同時にチクリと小さな棘のように、私は心から壱くんの隣で笑えているだろうか?と言う気持ちが沸いてきて心の奥に刺さる。
「幸せそう……」
思わず口から本音が出ると、隣にいた井坂課長が笑った。
「だな、平日に楽しんでるやつ見るとそう思っちまう、みんなの休日に働いてる人なのかもしれねーのにな」
「あー、なるほど」
ちょっと私の思いとは違ったが、それも一理ある。
特に相違を話しても仕方ないので頷いていると羽田くんが耳の近くで聞いてきた。 身長が近いから自然と耳の近くになるのだが……ちょっと吐息がかかるから止めて欲しいと思うが言えないでいた。
「笹木さんは幸せじゃないんですか?」
「幸せ……なのかな、たぶん」
わからない。
「ふぅん」
自分から聞いてきたくせに特に興味がないのか羽田くんは頷いてから無言で先を歩いて行った。
小さめのボストンバッグ1つと携帯用の小さなショルダーバッグだけ。それらを担いでドアの前に立っていると、向かう電車の中でトンと肩を叩かれた。
「お早うございます」
「あ、羽田くんお早う。早いのね?」
「こちらでは新人ですから」
ふわりと柔らかい笑顔で答える羽田くん。
今の彼からはあのゾクッとする暗さも色気も微塵も感じない。柔らかそうな人に見える。
「あちらについたらすぐに打ち合わせみたいだから飛行機の中ではしっかり予習しないとね?」
「ええ。開発ではオレは出張とかなかったんで、ちょっとドキドキします」
なんて僅かに頬を緩めただけの無表情で羽田くんは言った。
揺れる車内で他愛も無い話をしていると、こんな風にしている分には柔らかいのに、なぜたまに怖いのかと横顔を盗み見て考えてしまうのだ。
ついた先は札幌駅周辺。駅から外に出れば東京よりも空気が冷たいのがわかる。
秋の街を行けば風は冷たいが、観光客とすれ違う度に見えるその心から幸せそうな笑顔に心が温かくなる。
それと同時にチクリと小さな棘のように、私は心から壱くんの隣で笑えているだろうか?と言う気持ちが沸いてきて心の奥に刺さる。
「幸せそう……」
思わず口から本音が出ると、隣にいた井坂課長が笑った。
「だな、平日に楽しんでるやつ見るとそう思っちまう、みんなの休日に働いてる人なのかもしれねーのにな」
「あー、なるほど」
ちょっと私の思いとは違ったが、それも一理ある。
特に相違を話しても仕方ないので頷いていると羽田くんが耳の近くで聞いてきた。 身長が近いから自然と耳の近くになるのだが……ちょっと吐息がかかるから止めて欲しいと思うが言えないでいた。
「笹木さんは幸せじゃないんですか?」
「幸せ……なのかな、たぶん」
わからない。
「ふぅん」
自分から聞いてきたくせに特に興味がないのか羽田くんは頷いてから無言で先を歩いて行った。

