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哀色夜伽草紙
第11章 天使の記憶
「省吾……」

名前を呼ぶと省吾の声が耳の奥で木霊する。

『思い出してくれ!』

思い出したかもしれない。ねぇ何で忘れていたのだろう?いや、そもそも夢だと思っていたからだ。

「大丈夫?よかった……あのまま倒れちゃったからどうなるかと思った」

優しく笑って手に触れた省吾のぬくもりに泣きそうになる。

「省吾……」

丸い硝子玉の瞳に見詰められ、優しさに縛られて身動きができなかった。
貴方に触れて欲しいと思ってしまう。
何でだろう、どうしてこんなに胸の奥が疼くんだろう。

手を省吾の頬に向かって伸ばすと、省吾が顔を近づけてきた。

「琴莉」

そのままぎゅっとシーツごと抱きしめられた。
ふわふわの髪の毛が胸のあたりに見えて、それは天使の羽根に見えた。

思い切って、聞いてみる。

(あなたは誰?)

「省吾、なんでおじいちゃんの家に居たの?」

ピタリと省吾の動きが止まり、こちらをゆっくりと見上げた。
澄んだ瞳がこちらを映し出し、驚きで見開かれていく。

「……思い出したの?」

「さっき、夢を見たの、泣いてた2人とも」

「そう、あの家で会ってるよ。オレ琴莉に会って、あの時から貴女はオレの運命の人になったんだ」

長い指が私の手を取って私の指に絡んだ。
出会ってそんなに経って居ないけれど、省吾との触れ合いも私に既に心地よくなっていた。
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