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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

「ホットでいいの」
棚からマグカップを取り出しつつ肩越しに見やると、疲れたような足取りでかんなの隣に座る。頼みごとをしてその間に入ってくるのは流石だなと感心する。
否定がなかったので、自分のもついでに三杯分を用意する。静かすぎる部屋のせいで、どれほど小さな声でもお湯を注ぐ音にすら勝ってしまう。
「……よくここにいるとわかりましたね」
「玄関から直行。隆にいに今日の結果報告せんとって、したらサプライズ」
乾いた笑いを付け加えて、ショルダーバックをとん、と床に置く。木のスプーンでかき混ぜながら、直前の会話を思い返した。知りたいようで、聞きたくなかった事実がじわじわと形作ってしまった時間を。
なぜ、ガクが清龍の見舞いに来ないかの理由まで、わかってしまった。
入園前の悪縁はつばるだけではなかった。だとすれば、かんなにとってこの寮は守られる家ではなく、天敵の棲む地獄だったということか。そう認めてしまうのは惨い。明言されたわけではないが、退院後に顔を合わせることすら避けたい因縁は重い。
右手に二つ、左手に一つ、器用に取っ手を指にかけてテーブルに運ぶ。
「どうだった」
「試合くらい楽しかったわ」
「最高じゃん」
「色々契約書もらってん。保護者欄は肉親じゃなくてええって」
「つまり?」
「今書いてくれん?」
この行動力だよ。バックから折りたたんだ紙の束を出し、差し出される。この青年の将来を決めかねてしまう厚みをずしんと感じた。
「一応読んで確認するよ」
「ルカの担当の小脇さんって人が俺の仕事を管理してくれるって。明日ルカが仕事あるらしいから渡してもらお思って」
「こういうのは郵便がいいよ。人づてはよくない」
「……確かに。駅前んとこなら放課後ぎり間に合うか」
印鑑が置いてあるデスクに向かい、そのままその椅子に座って書類に向き合うことにした。ペン立てから使い慣れたボールペンを手に取り、文字列に眼を落とす。ルカは家族と接点を絶ってないから、彼女の契約書は見たことがない。
責任重大だな、と脳内で呟く。リーガルチェックなんて明日までに出来る者はいない。気合いを入れて取り組まないと。
「明日の朝、登校前に寄ってね。今夜中には仕上げとくよ」
まだ熱いコーヒーを啜ってから、ぱん、と手を合わせた。
「おおきに」
わざとらしいイントネーションに笑いが漏れる。

