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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

ずず、と床を足が擦る音がする。座っているんじゃ後ずさりも満足にできない。けれど出ていくほどの決定打を打たれたわけじゃない。
「なん……関係、ないですよ」
かりかり、と左腕を搔きながら目線がドアの方に逃げる。ここから先は本来鳴海の仕事だ。自分はカウンセラーじゃない。ただの管理人だ。
ただ、この寮の未来を憂いている一人でしかない。
「……ガクが進学以外の道を進むのもわからない話じゃない。けど、卒業を待たずに、親友の退院を待たずに飛び出すのなんて、そこに問題があったとしか思えないだろ」
「隆人さんは真実を知ったら満足ですか」
切り返すナイフの鋭さに、視線がそれていることをホッとすらした。こういうところがか弱いだけの少女じゃないんだ。胸の内に秘める豪炎が時折垣間見える。
「無理やり暴くつもりはないよ。君らが抱えたまま出ていきたいなら、黙って協力する。けど、少しは納得したくてね。二年半見守ってきた男の子たちが決別するのは割とショックなんだよ」
きゅっと下唇を噛み、かんながこちらを向いた。長い睫毛の下で、大きな瞳に怒りと苛立ちと悲しみを渦巻いている。その小さな体で抑え込むには辛そうな姿に、立ち上がって抱きしめたい衝動がくすぶる。
「私が……ここに、来なければよかった」
震える声は、冗談でも慰められたいわけでもない。
どうしても吐かざるを得なかった本音。
握った拳を腿に押し付けながら、涙だけは流すまいと大きく開かれた瞳はテーブルの模様を睨みつけている。
「ここに来なければ……誰も、傷つくことなんてなかったのに」
「自分だけ傷つけばよかった?」
ビンタでも打たれたかのように小さな唇が止まる。
その言葉を反芻するような数秒。
「家族から離れて、自由を手に入れにここに来たんだろう」
「でも、つばるが……峰先輩が、いた」
独り言のようにか細い声は聞き取るのがやっとだ。
「私がいなければ……岳斗さんは親友を失わなかった」
「かんな」
「私なんてっ! あの人のそばにふさわしくない!」
爆発しそうな想いが噴き出し、頭を抱えた少女を見つめる。
その背中のうしろの扉が、がた、と開いた。
入ってきた長身の生徒に、目を閉じて溜息を吐く。
「おかえり。ガク」
「隆にい。コーヒー淹れてくれん?」
平常すぎる声と表情がこの場に似つかわしくないのは、指摘しないことにした。

