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蜜会
第3章 溢れる
「やぁ、遅くなってごめんね」

「ううん、休みだから道が混んでたでしょ」


 今日も彼は前と同じようなジーンズにスニーカー。

 それに長袖の黒い丸首シャツ。

 服装だけなら、まるでうちの父が近所に出かける格好だ。

 それでも安宅さんは上背もあるし、余計な肉もついてないからかっこよく見える……のはひいき目だろうか?

 はい、と出されたふたつの袋を受け取って、私ははしゃいでしまった。

 おいしそうな中華弁当の香りもそうだけど、私の好きな洋菓子店のロゴが入った袋があったからだ。


「ここのケーキ、好きなの! どうして? デパートの中じゃなくて裏手なのに」

「調べたら、駅前で評判のいい店がそこだったから、弁当ができる待ち時間の間に行ってみたんだ」


 私に促されて、安宅さんは洗面所で手を洗ってからまたローテーブルの前にちょこんと座る。


「食べよっか」

「うん。でも、駅とうちじゃ逆方向でしょ。遠回りさせちゃったね」

「いや、今日はJRで来たよ」

「えっ?」


 休日は基本的に、奥さんが車で出かけたり子供を部活に送って行くからあの赤い車では来ていないと言うのだ。


「じゃあ、会社の車?」

「あっちの駅までね。さすがに長距離を走って私用がバレたらヤバいからさ。今日は休日出勤ってことにしたよ」

「そうなの。じゃあ車は駅の駐車場とか?」

「そそ、瑠璃ちゃんと出会った辺りの」


 田舎だからお金もかからず停め放題の駅前駐車場に会社の車を置いて、でもちょうどいい直通の新快速がなくて乗り継ぎの京都周りでこっちに来たというのだ。


「で、駅からはタクシーを使っちゃったよ。ほとんどワンメーターだし、冷めないうちに弁当も食べたかったからね」

「やだ、なんかすっごい必死だね、安宅さん」

「そりゃ必死さ」


 私がお椀にスープを二つ持って来て隣に座ると、安宅さんは私の背を撫でた。


「瑠璃ちゃんに会うためだからね」
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