この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
蜜会
第3章 溢れる

「あのね。私は先週言ったように、今は仕事を続けたいから」
「瑠璃……」
フォークをせわしなく動かす手を止めて、やっと祐一はこちらを向いた。
「今ね、仕事が面白いの。それにきっと私、主婦も農業も商売も向いてないと思う」
「……急に何でもやらせるつもりはないよ」
「もし祐一と一緒になったら、って考えてみたの。お義母さんと一緒に暮らしていながら何もしないで、市役所から帰ったらご飯だけ食べて寝るわけにいかないでしょ? 土日だって、祐一がハウスで働いてるのに遊びに行ったりしていいわけないわよね? だから無理」
「……じゃあ、いつになったら?」
「わかんない、でもきっとこれからも無理」
せっかくおいしいタルトだったのに、祐一の文句を聞いていたら味もしなくなってしまったから、さっさと最後の一口を食べたら私は「お会計して」と立ち上がった。
「る、瑠璃?」
「そんなにつつき回して、もう食べないんでしょ? 私、明日ちょっと早出で行かなきゃならないところがあるの」
嘘をついて、テーブルの上に一万円札を置く。
「私、祐一に期待させるわけにいかないし、それならもう祐一におごってもらうわけにいかなくなったから」
「瑠璃、どうして……」
「ちょっと歩いたら駅だから、そこから帰るね。ごちそうさまでした。私の連絡先はスマホから消してね、さよなら」
祐一がおろおろしているのを尻目に、店の入口に立っていたウェイターさんにも「ごちそうさまでした」と言って私は早歩きで店を出た。
昼間はポカポカしていたけど夜にもなれば、まだ湖からくる風は冷たい季節だった。
それでも軽くアルコールが入っていたのと今の勢いとで体はあったかかった。
「あー、お金おろしといてよかった! フレンチっておいしいけど量が少ないし。帰って何か食べよ」
声に出した独り言をつぶやいて、今の時間を見るのにスマホを取り出したら安宅さんからLINEが来ていた。
『駅前にデパートあったよね。お昼ご飯はそこで何か買って行くよ』
それに対して、好きだけどちょっと高いから普段はあまり買えない中華総菜屋の名前を挙げてから「デザートにケーキも買ってね」とつけ加えておいた。
「瑠璃……」
フォークをせわしなく動かす手を止めて、やっと祐一はこちらを向いた。
「今ね、仕事が面白いの。それにきっと私、主婦も農業も商売も向いてないと思う」
「……急に何でもやらせるつもりはないよ」
「もし祐一と一緒になったら、って考えてみたの。お義母さんと一緒に暮らしていながら何もしないで、市役所から帰ったらご飯だけ食べて寝るわけにいかないでしょ? 土日だって、祐一がハウスで働いてるのに遊びに行ったりしていいわけないわよね? だから無理」
「……じゃあ、いつになったら?」
「わかんない、でもきっとこれからも無理」
せっかくおいしいタルトだったのに、祐一の文句を聞いていたら味もしなくなってしまったから、さっさと最後の一口を食べたら私は「お会計して」と立ち上がった。
「る、瑠璃?」
「そんなにつつき回して、もう食べないんでしょ? 私、明日ちょっと早出で行かなきゃならないところがあるの」
嘘をついて、テーブルの上に一万円札を置く。
「私、祐一に期待させるわけにいかないし、それならもう祐一におごってもらうわけにいかなくなったから」
「瑠璃、どうして……」
「ちょっと歩いたら駅だから、そこから帰るね。ごちそうさまでした。私の連絡先はスマホから消してね、さよなら」
祐一がおろおろしているのを尻目に、店の入口に立っていたウェイターさんにも「ごちそうさまでした」と言って私は早歩きで店を出た。
昼間はポカポカしていたけど夜にもなれば、まだ湖からくる風は冷たい季節だった。
それでも軽くアルコールが入っていたのと今の勢いとで体はあったかかった。
「あー、お金おろしといてよかった! フレンチっておいしいけど量が少ないし。帰って何か食べよ」
声に出した独り言をつぶやいて、今の時間を見るのにスマホを取り出したら安宅さんからLINEが来ていた。
『駅前にデパートあったよね。お昼ご飯はそこで何か買って行くよ』
それに対して、好きだけどちょっと高いから普段はあまり買えない中華総菜屋の名前を挙げてから「デザートにケーキも買ってね」とつけ加えておいた。

