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蜜会
第3章 溢れる
 隣の、県庁所在地である市まで三十分ほど車を走らせて、前にも来たことがある湖沿いのこのあたりでは一番の高級ホテルに着いた。


(ああ、やっぱり……私、いくらなんでもこのホテルにこんな仕事着で来たくなかったなぁ)


 そう訴えてもきっと祐一はわからないだろう。

 突然の誘いにあらかじめ「どこに行くから」ってことも教えてくれないような人だから。

 襟元にビジューのついたカットソーと、膝丈のスカート。

 かろうじてパンプスだけどおしゃれさよりも動きやすさを重視して平日は服を選んでいる。

 このホテルには、祐一がイチゴを卸しているフレンチレストランがある。

 いつもデートはこういうフレンチやイタリアンの高級なレストランで、祐一のおごり。

 普通にシェフが平身低頭、挨拶に来て祐一のご機嫌伺いをする。

 だから私は自分から動いたわけでもないのに、毎回高いものを奢ってくれる金持ちの男を捕まえて恵まれているのかもしれないし、祐一が結婚したいと言ってくれたのは幸運なのかもしれない、と思うようには「前は」一応していた。
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