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蜜会
第2章 湧き出す
「へぇ、彼氏に仕事辞めて結婚してくれってかぁ。どうするの?」


 どうする、も何も彼氏と呼べるものなのか。

 私の中で「祐一とそんなことまで考えた深いつきあいをしている」とも思っていなかったし、今まで男としての魅力を感じていなかったものだから、ちょっとこの話は初対面の人には言いにくいなと思いつつ、つい安宅さんが話しやすい人だったので話すことにした。


「だって、安宅さん。聞いてくださいよ」


 とりたててイケメンでもなく、年齢のわりにちょっと小太りの祐一。

 ご実家でお母さんが何でもしてくれて、料理上手で、自分もグルメを自称している。

 それは私は別に何とも思ってなかったのだけど、最初はピンと来なくても、デートを繰り返していればお互いの趣味なんかの話で盛り上がったりして深い仲になっていくと思ったけど、土日が休みじゃない祐一はいつもデートに平日の夜を指定してきた。

 そのころ、私は平日は遅くまで仕事があることが多いし、そこの時間をあけておくだけで精いっぱい。

 そして「お泊り」を普通なら意識しだすだけのデート回数をこなしていても、次の日も激務なので控えたいという季節だった。

 ところが祐一は、私が三月生まれだと言ったらそのころの火曜にまたデートをセッティングしてきた。

 正直いちばん忙しい日の夜で、職場の人たちに謝って「親が来てるので夕食だけ食べて戻ります」と嘘をついて抜けて行ってみれば「誕生日だから、高級ホテルのディナーと部屋をとっておいた」と言われてしまい「今、そんなのいきなり言われても応じられない!」と寝不足の頭で怒って帰ってしまった。

 美容院に行く暇もない髪の毛と、おしゃれのかけらもない通勤用の服で高級ホテルに連れていかれるのも恥ずかしいけど、あれほど年度末は忙しいと言っておいたのに……と腹が立つやら呆れるやらでそれっきりにしておいたら、かかってきた電話で「これからは、将来を」と言われ、正直なところ仕事で顔を合わせることや紹介してきた人との兼ね合いがあって困っていた。
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