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埋み火
第1章 忍び火

霧子が十年連れ添った夫と別れたのは徐々に夫が暴力をふるうようになったからだ。
別れようと決意し、わずかなパート代と、貯金の数十万とを合わせて持ち出して、パート先に退職願を郵送すると段ボール三箱ぶんの荷物だけを持って大阪市内にある親友の家に逃げ込んだ。
実家や職場にも夫は怒鳴り込み、警察に捜索願を出すなどして大騒ぎになったらしいが、霧子は親友が看病する中でずっと疲労から熱を出して起き上がれず何週間も伏せっていた。
夫に家に閉じ込められていた間、昼間と夫が寝静まった深夜とに遊んでいたオンラインゲームでもともと博之とは出会った。
一方の博之は新宿にオフィスを構える大会社のエンジニアだが、数年前から激務で何度もうつ症状が出て数週間単位で休職していた。
人員整理からくる仕事量の増加に体がついていかない上に殺人的な混み具合の満員電車に乗るだけで眩暈がしてホームのベンチで動けなくなることが多かった。
ある夜ゲーム中にいつもの頭痛がして「気分が悪いから上がる」と、まだ友人だった霧子に言ったところ翌日メッセージが来ていた。
『あれから大丈夫だった? 今日も具合悪いなら、無理しないで休んで病院行ってね』
別れようと決意し、わずかなパート代と、貯金の数十万とを合わせて持ち出して、パート先に退職願を郵送すると段ボール三箱ぶんの荷物だけを持って大阪市内にある親友の家に逃げ込んだ。
実家や職場にも夫は怒鳴り込み、警察に捜索願を出すなどして大騒ぎになったらしいが、霧子は親友が看病する中でずっと疲労から熱を出して起き上がれず何週間も伏せっていた。
夫に家に閉じ込められていた間、昼間と夫が寝静まった深夜とに遊んでいたオンラインゲームでもともと博之とは出会った。
一方の博之は新宿にオフィスを構える大会社のエンジニアだが、数年前から激務で何度もうつ症状が出て数週間単位で休職していた。
人員整理からくる仕事量の増加に体がついていかない上に殺人的な混み具合の満員電車に乗るだけで眩暈がしてホームのベンチで動けなくなることが多かった。
ある夜ゲーム中にいつもの頭痛がして「気分が悪いから上がる」と、まだ友人だった霧子に言ったところ翌日メッセージが来ていた。
『あれから大丈夫だった? 今日も具合悪いなら、無理しないで休んで病院行ってね』

