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埋み火
第1章 忍び火
 霧子の名前で取っていたセミダブルの部屋に入ると、博之が鞄をソファに置いたりスマホの充電をしている間にさっと霧子はポーチを持ってバスルームに入り化粧を直し、体のチェックをする。

 下着が汚れていないか確かめたらもう一度リップグロスを唇に重ねて出ていく。




 二人で何も言わず、ぎこちなくセミダブルベッドの端にそれなりの距離を保ったまま腰掛けると博之はまずテレビのリモコンに手を伸ばす。

 霧子はせっかく会えて二人きりになれたのだからそんなときに流れる夕方のバラエティやニュース番組は煩いだけだしセックスの最中に気が散るのだが、博之は無音のほうが緊張してしまってだめらしい。



(もう何回もデートしているのに、いつまで緊張しているつもりかしら)



 隠れていつもこのホテルで過ごすようになった半年で、会った回数よりもセックスそのものの回数のほうが多い。

 年齢のわりに一日に何度も集中的に体は重ねているが、不倫の上に遠距離だから会う間隔が一か月以上空くこともざらなので毎回、霧子と会うのは緊張してしまう。

 待ち合わせからベッドにもつれこむまでどう始めていいのかもわからない……と博之は言う。




 それほど真面目な小心者が、いくら相手が年増の手軽なバツイチ女だとはいえ不倫などと大それたことをよくしでかしたものだと霧子はたまに可笑しくなる。

 きっと彼の四十二年の人生で初の体験だろう。



 互いの出方をちらちら見て窺いながら、ふたりは出会ったときのことなどをふと思い出していた。
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