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埋み火
第2章 熾し火
 府内では京都市と肩を並べる観光地なので、ケーブルカーも混みあっておりさほど車内から景色を楽しむことはできなかった。


「まあ、お楽しみは登ってからや」


 実際に降りて展望台に来てみると、その「飛龍観」と呼ばれる景色の想像以上の素晴らしさに霧子は感嘆の声を上げた。

 海の青さと白い砂の美しいコントラストが眼下に広がり、海沿いで育ったこともある霧子にとっては懐かしくもあり、その波打ち際の様子は北国の景色ともまた違うため新鮮でもあった。


「課長、すごい! きれい! 私、ここまですごいなんて思ってなかったです!」

「せやろ、せやろ。ああ、工藤さんがこんな喜んでくれて嬉しいなぁ」


 そう言って霧子のすぐ真横に立った賢治のポロシャツから、博之と同じ香りがかすかにして霧子は一瞬だけめまいがしそうになった。


(え? ……よくある柔軟剤なんだから、ただの偶然よね)


 車内はよくある香りがきつい、たばこのにおいを消す芳香剤の香りがしたし、蕎麦屋もテーブルが広い席だったため賢治との距離はあいていたから今まで気付かなかったのだろう。

 少し、あの甘い疼きが出てしまい霧子は困った。

 こんなときくらい、忘れたい。



 博之の記憶を振り払うように霧子は賢治に話しかけた。


「私、こっちの大学に出てくるまで『京都に海がある』なんて知らなかったんですよね」

「そういう人は多いやね」

「やっぱり、海はいいですね」

「うん、俺も実家が兵庫の海沿いやから。舞鶴はええとこだよ。子供のためにも、もう少し舞鶴支店でいたいな」

「課長はご家族思いですね、奥さんとお子さんがうらやましいな」

「課長、ってのはやめようや」


 賢治がそう言って手を握ってきたので、霧子は一瞬だけ固まった。


「どうせ職場では会わないんやから、どう呼んでも大丈夫やろ、今日は元上司として会いに来たわけやないもん」

「……じゃあ、どんなふうに呼べばいいのかしら」

「荒木さん、もなんか他人行儀でいややしな。賢治さん、とかがええなぁ」

「賢治、さん……」
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