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埋み火
第2章 熾し火
 普通だったらここでさっぱりと思い出の品などを捨てて身辺整理でもすればいいのかもしれないが、霧子は博之から何ももらったことがない。

 上京したときに自分から博之にあげるのも、京都の菓子など会社で食べてパッケージを捨てれば証拠が残らないようなものばかりだ。

 思い出は、「無効」のスタンプを押してもらった新幹線の乗車券やデートで行った場所のチケットの半券などだけだった。

 そういう関係でしかなかったのだ、と思うと自分がいっそう惨めになった。

 これほど好きになっても、何も形に残らない。


(奥さんのいる人なんて、好きになっちゃだめね)


 それまでのネットだけでの付き合いからリアルの付き合いになった二月ごろにタイムマシンで戻れるなら、自分を「あとでつらくなるからやめなさい」と引っぱたいてでも止めてやりたかった。

 ドレッサーの引き出しに入れてある、新幹線の乗車券をゴミ箱に入れて霧子は博之を忘れることにした。

 そして軽い睡眠導入剤を飲んでやっと眠りについたが、霧子は夜中に悪夢を見た。

 毎日待ち望んでいた博之からの電話だというのに、その内容が「妻が妊娠している」と告げるものだった。

 そんなドラマでよくあるような展開とは全く思っておらず、結婚して一六年も経つ夫婦が今頃妊娠するようなことがあるのだろうか。


「私と会いながら、家では奥さんとよろしくやってたの?」

「どっちの機嫌も取らないといけないでしょ」


 博之の口調はさっきの電話のような冷たいものではなく元気なときのもので、それがいっそう残酷だった。


「お前ってさ、ヱビスビールみたいなもんなんだよ」

「どういうこと?」

「美味しいけどさ、俺そんなに酒も強くないし、晩酌もしてないでしょ。だから、好きでも別にこのあと飲めなくなっても、そんなに悲しくないんだ」



そこで目が覚め、夢とはいえあまりに酷い台詞に霧子は声を上げて枕を濡らした。
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