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埋み火
第2章 熾し火
 なにぶん限られた昼休みであるし、周囲の耳もあるのでさらっとしかここにいる経緯は言わないでLINEを交換した。


「へぇ。霧子、大変やったのね」

「ごめんね、極限状態すぎて、スマホもデータを破棄して家に置いて出てきたさかい遥の電話番号はなくしちゃってん。でもまた会えて嬉しいわ」

「この前メールが返ってきちゃってがっかりしたんやけど、そういうことやったのね」

「まぁ、みんなに言いふらしてくれてかまへんよ。いずれここで誰かには会うかもって思とったし」

「ううん、そんなことせえへん。銀行さんのコンプライアンスはしっかりしてるさかいね」


 左手の人差し指を唇にあてるしぐさでおどけた遥の手には銀色のリングが嵌っており、かすかに霧子は胸が痛んだ。


「で。今は彼氏おるん?」

「いや……まだおらんよ。一応、喪は明けてんけどね」

「ああ、離婚して六か月は経ってるのね。そういえば霧子、荒木さんのこと覚えとる?」

「えーと、荒木代理よね?」

「今は課長にならはったんよ。霧子がやめてすぐに山科支店に行って、そこから舞鶴支店に異動しはったわ」


 九つ上の男、荒木賢治のことを霧子は久しぶりに思い出した。

 霧子が就職後はじめて配属された伏見支店の課長代理だったが、家族思いのスポーツマンだった。

 趣味のサッカーやらつきあいのゴルフやらで真っ黒に日焼けしていて、ちょっと見ただけでは銀行員とも思えぬ風貌の快活な男だった。

 取り立てて出世が早いとか遅いということもなく、霧子のいた銀行では年齢的には妥当な昇進だ。


「荒木課長ね、霧子のこと好きやったんよ」

「えっ?」

「めっちゃ酔ってるときに言わはったの。『工藤さん結婚してまったしなぁ、ちくしょう』って」

「それだけで好きやなんて言わんといてよ、荒木代理……課長は奥さんも子供もいはったやん」


 全く予想しえなかった言葉を聞いて霧子は面食らった。

 伏見支店に最初いた、いわゆる「お局さま」に霧子が目をつけられたとき、賢治は霧子が呼びつけられてくだらないことで怒鳴られているといつも「まあまあ」と割って入って、霧子を逃がしてくれた。

 そして夫の勘気がひどくなりかけていた時期にはいつも職場で賢治の暖かい人柄に救われたのは事実だし、やはり恩人といえるだろう。
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