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埋み火
第1章 忍び火
「きり、今イったのか」

「わかんないけど……たぶん」

「そっか。気持ちよかったのか」


 返事はせず、霧子は目をつぶったまま微笑んでいた。

 乱れて頬にかかった黒髪をのけてやり、口づけながら頭を撫でた。

 そういえば自分だけお茶を飲んだな、と思い、博之はコンビニで一緒に買ったプレミアムビールを冷蔵庫から出してきて霧子に渡した。


「ほら、お前の好きなヱビス」

「うん」


 受け取って霧子は軽くにらむ。


「こういうときは、缶を開けてから渡すのが優しさじゃないかしら」

「すみませんね」


 全くもう、と霧子は半身を起してプルタブを開け、ごくごくと咽喉を鳴らし旨そうに飲んだ。


「霧子さん、飲みっぷりがいいですね」

「喉が渇くのよ、いつもエッチのあとは。誰かが水分をぜんぶ持っていくから」

「へえ」


 せっかくのヱビスなのに一気したらもったいなかったな、と言いながら霧子は空になった缶をサイドテーブルに置いた。


「それに何でかね、体力を使ったからかしら。いくら飲んでも酔わないの」

「うらやましいよ、俺は三五〇缶を空けるだけで精いっぱいだ」

「うん、見てて心配になるから飲まないで」


 事後にホテルを出て、霧子と話しながら飲むビールは旨い。
 
 普段は睡眠薬を飲んでいることもあって我慢しているが、デートのときだけは頑張って大きなジョッキを必死で飲み干す。


「ああ、さっきの生バック、すっげえ気持ちよかったよ」

「そう」

「昇天、ってああいうことを言うんだな。もう頭ん中が白くなりっぱなしだった」

「そうなるのね、男の人は」

「きりもたくさんイけるといいな」

「私ね、いろいろ考えちゃうのよ。あなたのが途中で柔らかくなったらどうしようとか」

「そんな心配してるのか」

「するわよ、男の人って案外メンタルが弱いんだもの」

「まぁ、弱いなぁ」

「マンガじゃないんだから、そんなに何回もイったりされても困るって思うわ。相手があなたなら、私はそれでじゅうぶん」
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