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埋み火
第1章 忍び火
 普段は隣にいても上ずった声でひたすら世間話をしようとする博之が珍しくテレビをつけてすぐに「キスしよっか」と座り直して距離をつめてきた。


「ん?」

「いいでしょ、きり」


 あだ名を呼んで霧子の腰に手を回し、もう片方の手の平を頬に添えると霧子も軽く顎をあげて目を閉じ、キスを待つ。


(あぁ……)


 唇が触れ合っただけで体が震えるような感覚を霧子は味わう。

 頭がぼうっとするほどに、肌どうしが接触している一点だけで感じる。


(ひろ……)


 キスが欲しかった。

 本当は我慢できず、改札で抱きついてキスしたかった。

 それほどに霧子はずっと博之を求めていた。


 博之の唇は不思議な質感をしていると霧子は思う。

 何に例えたらいいのかもわからないのだが、とにかく触れていると心地よい。

 この厚めの唇にキスされると、二か月ものあいだ会えなかった孤独は癒され、下腹部の疼きはいっそう強くなる。

 愛おしさで胸がいっぱいになり、頬に添えられた手の上に自分の手を重ねて握ると涙が出そうになった。

 武骨でがさがさしていても、愛する男の手は好きだ。

 博之の唇、手、肌すべてが自分にしっくりくる。
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