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鬼ヶ瀬塚村
第13章 人間道

言われたように下の取っ手に手をかける。
『右じゃねッ!左だ』
紗江さんの声が後ろから飛んできた。
僕は左側の取っ手に手をかけ、手前に引いた。
中には自家製麦茶が入っているであろうボトルが数本並んでいた。じきに本格的な夏が来るとは言え、少し多い気がする。
僕はそれを手に取り、食器棚を開けて適当な湯飲みに注いだ。
そしてポケットから錠剤を出すと素早く口へ運び、麦茶で流しこんだ。
『どごが具合が悪いんが?』
紗江さんが流し台に腰をもたれながら言う。
『…単なる胃薬です』
嘘だ。安定剤のリフレックスだ。
『ぞうか、食ほせぇぐぜにな』
紗江さんは言って、流し台に向き直りザァザァと音を立てながら洗い物を始めた。
不思議な味のする麦茶だ。改めて僕は思う。温泉が近くにあるせいか硫黄や鉄分が豊富なのだろうか。
少し癖はあるが冷えていて美味しい。
ガタッと不意に音がした。調理場のすみにある木製の引き戸からだ。
開け放たれたそこからは荒岩家の裏庭が見えていた。
猫じゃらしが何本か生えて揺れている。
紗江さんは音に気付いたようで、一度流し台から顔を上げた。
しかし、再びまた流しに視線を落とし小さな身体をテキパキ動かしながら皿を洗っていく。
猫でもいるのかな?僕は麦茶の入った湯飲みを置くと引き戸へと近付いた。
『右じゃねッ!左だ』
紗江さんの声が後ろから飛んできた。
僕は左側の取っ手に手をかけ、手前に引いた。
中には自家製麦茶が入っているであろうボトルが数本並んでいた。じきに本格的な夏が来るとは言え、少し多い気がする。
僕はそれを手に取り、食器棚を開けて適当な湯飲みに注いだ。
そしてポケットから錠剤を出すと素早く口へ運び、麦茶で流しこんだ。
『どごが具合が悪いんが?』
紗江さんが流し台に腰をもたれながら言う。
『…単なる胃薬です』
嘘だ。安定剤のリフレックスだ。
『ぞうか、食ほせぇぐぜにな』
紗江さんは言って、流し台に向き直りザァザァと音を立てながら洗い物を始めた。
不思議な味のする麦茶だ。改めて僕は思う。温泉が近くにあるせいか硫黄や鉄分が豊富なのだろうか。
少し癖はあるが冷えていて美味しい。
ガタッと不意に音がした。調理場のすみにある木製の引き戸からだ。
開け放たれたそこからは荒岩家の裏庭が見えていた。
猫じゃらしが何本か生えて揺れている。
紗江さんは音に気付いたようで、一度流し台から顔を上げた。
しかし、再びまた流しに視線を落とし小さな身体をテキパキ動かしながら皿を洗っていく。
猫でもいるのかな?僕は麦茶の入った湯飲みを置くと引き戸へと近付いた。

