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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第21章 まもなく境界線に、電車が参ります
【5】
そうして先へと進んだはずの神依の目に映る景色は相変わらず、灰と黒が層をなす彩度の低い建物と道だけだった。左右を瓦礫や廃墟に塞がれた、黒く固い一本道。
なのに自分が足を踏み出す度に、それにそぐわない淡い花の香りが鼻腔をくすぐる。改めて腕を通した衣も、休む前と比べると清潔感のある、ふんわりとした肌触りに戻っていた。
「……」
それは、自分が今まで母と呼び慕ったあらゆる女性達の香りと感触だった。記憶も肌も、無償のまま優しく抱いてくれる。
そして神依は自らがそうであるとは微塵も思っていなかったが、母達に惜しみもなく与えられた何もかもを確かに得て、今この道を歩いていた。だから子龍も時折、外套の中に潜り込んでは顔を埋めるようにして暖を取り、その温もりを味わう。
無味な景色に咲く一輪の野花。鼠軼の珠に照らされ唯一色と香を持つ神依は、空から見渡せばそんなふうにも見えていたかもしれない。瓦礫の隙間から突き出す、幹を裂いて死んだ樹だけがその血肉の瑞々しさと鮮やかさを知っている。生き物としての、有機物の生々しさ。
「あ……」
やがて一本道は、大きな十字路へと神依を導いた。土雲達から聞いていた通りで間違いない。ただその先は、自分で選ぶよう示唆されていた。
そうして先へと進んだはずの神依の目に映る景色は相変わらず、灰と黒が層をなす彩度の低い建物と道だけだった。左右を瓦礫や廃墟に塞がれた、黒く固い一本道。
なのに自分が足を踏み出す度に、それにそぐわない淡い花の香りが鼻腔をくすぐる。改めて腕を通した衣も、休む前と比べると清潔感のある、ふんわりとした肌触りに戻っていた。
「……」
それは、自分が今まで母と呼び慕ったあらゆる女性達の香りと感触だった。記憶も肌も、無償のまま優しく抱いてくれる。
そして神依は自らがそうであるとは微塵も思っていなかったが、母達に惜しみもなく与えられた何もかもを確かに得て、今この道を歩いていた。だから子龍も時折、外套の中に潜り込んでは顔を埋めるようにして暖を取り、その温もりを味わう。
無味な景色に咲く一輪の野花。鼠軼の珠に照らされ唯一色と香を持つ神依は、空から見渡せばそんなふうにも見えていたかもしれない。瓦礫の隙間から突き出す、幹を裂いて死んだ樹だけがその血肉の瑞々しさと鮮やかさを知っている。生き物としての、有機物の生々しさ。
「あ……」
やがて一本道は、大きな十字路へと神依を導いた。土雲達から聞いていた通りで間違いない。ただその先は、自分で選ぶよう示唆されていた。

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