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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第21章 まもなく境界線に、電車が参ります
男の不器用さと、母の優しさと。そのどちらもの感覚がもう恋しくて、けれどなんとなく甘酸っぱい感覚の方が直情的に背筋に走る。親不孝な娘でごめんなさい、と苦笑しながらも、今はただこの柔らかな布団に埋もれてぬくもりの中で身を縮めていたかった。あの若穂色の衣の代わりに、男のぬくもりの代わりに、この親不孝な体を包んで。
神依は髪をとかしていた手を止め、熱情のこもった息を一つ吐(つ)くともそもそと布団に潜り、何をするわけでもなく久しぶりの長い休息を得る。
鼠軼の珠を挟んで櫛の小菊を目と指先でなぞり……やがてまどろみが落ちてきて自分の意思では留められないほど瞼が重くなれば、何故か雨音が微かに耳に届いた。
窓も無い、白くて固くて分厚い壁に囲まれただけの場所なのに、音だけが記憶の中の淡島と重なる。
冬の氷雨の音ではない。夏の雨……遠雷遥か、名残の雨の音。
(……?)
その雨音に混じって、声が聞こえる。その声に、呼ばれている気がする。とても恋しくて……懐かしい。現世と黄泉の狭間で耳にする、男の声で紡がれる自分の名。聞き覚えがある。
「……日嗣様……?」
気付けば、唇がその形を作り出していた。
神依は髪をとかしていた手を止め、熱情のこもった息を一つ吐(つ)くともそもそと布団に潜り、何をするわけでもなく久しぶりの長い休息を得る。
鼠軼の珠を挟んで櫛の小菊を目と指先でなぞり……やがてまどろみが落ちてきて自分の意思では留められないほど瞼が重くなれば、何故か雨音が微かに耳に届いた。
窓も無い、白くて固くて分厚い壁に囲まれただけの場所なのに、音だけが記憶の中の淡島と重なる。
冬の氷雨の音ではない。夏の雨……遠雷遥か、名残の雨の音。
(……?)
その雨音に混じって、声が聞こえる。その声に、呼ばれている気がする。とても恋しくて……懐かしい。現世と黄泉の狭間で耳にする、男の声で紡がれる自分の名。聞き覚えがある。
「……日嗣様……?」
気付けば、唇がその形を作り出していた。

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