この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
「……」
そう呪いにも似た言葉を呟きながら、少女はわざわざ首を差し出すように踞るが、目の前の男は何故か一向に剣を振るおうとはしない。ただ泥にまみれ穢れた自分を見つめて、やがてその傍らに跪(ひざまず)くと、ゆっくりと泥の中に剣を突き立てた。
“──……何を……”
二つの、同じ女の声が重なる。けれども日嗣は、目の前の少女にだけ語り掛けた。
「……この剣は、元は貴女の子である素戔鳴尊が、貴女がお産みになった豊葦原にて大蛇を退治した際に、その尾から顕した剣です。……大蛇の行く先は常に暗雲立ち込め、雨を滴らせていたと。……どうぞ、剣にお手を触れさせて下さい。私にはできませんが、万物の母たる貴女には……或いはこの剣を依りに、何かを産み出せるかもしれない」
『……』
その言葉に、少女は呆けたように自らを鎧っていた手と足と空気を緩め、男を見上げる。
一体、この男は何を語っているのだろう。とうに子を為す神威など失せた。豊葦原でさえ今は皆、神のことなど忘れ自ら何かを生み出せる世になって、勝手に生きて勝手に死んでいるのに。……だからこそ……だからこそもう一度、自分が愛される世界で、愛する人とやり直したい、やり直せると思ったのに……。
『……お母さん……。私が? 本当に……?』
「はい」
『……』
そう呪いにも似た言葉を呟きながら、少女はわざわざ首を差し出すように踞るが、目の前の男は何故か一向に剣を振るおうとはしない。ただ泥にまみれ穢れた自分を見つめて、やがてその傍らに跪(ひざまず)くと、ゆっくりと泥の中に剣を突き立てた。
“──……何を……”
二つの、同じ女の声が重なる。けれども日嗣は、目の前の少女にだけ語り掛けた。
「……この剣は、元は貴女の子である素戔鳴尊が、貴女がお産みになった豊葦原にて大蛇を退治した際に、その尾から顕した剣です。……大蛇の行く先は常に暗雲立ち込め、雨を滴らせていたと。……どうぞ、剣にお手を触れさせて下さい。私にはできませんが、万物の母たる貴女には……或いはこの剣を依りに、何かを産み出せるかもしれない」
『……』
その言葉に、少女は呆けたように自らを鎧っていた手と足と空気を緩め、男を見上げる。
一体、この男は何を語っているのだろう。とうに子を為す神威など失せた。豊葦原でさえ今は皆、神のことなど忘れ自ら何かを生み出せる世になって、勝手に生きて勝手に死んでいるのに。……だからこそ……だからこそもう一度、自分が愛される世界で、愛する人とやり直したい、やり直せると思ったのに……。
『……お母さん……。私が? 本当に……?』
「はい」
『……』

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


