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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
***

 瞬間、日嗣の垂飾品に混じり今も灯りを宿していた鏡の欠片から炎が迸(ほとばし)り、二人を包む。
『──嫌あああっ!!』
それに神依の姿をした黄泉の女神は絶叫し、反射的に日嗣を突き飛ばすと転がるようにして炎から遠ざかった。
 衣に飛ぶ火の粉を袖で振り払い、侵されている訳でもないのに髪から裳裾まで、狂ったように叩(はた)き始る。その顔は蒼白で、先程までとは打って変わって恐怖に歪み、ぽろぽろと涙まで流していた。
 炎は日嗣を拘束していた糸を焼き、それを伝って辺りに張り巡らされた巣や糸玉にも乗り移り、燃やしていく。風にも水にも屈しないその蜘蛛の糸は、炎には呆気なく屈服した。
 程なく天井も火に食われ崩れ落ち、夜の闇を映す。荒れた木や枯れた草花にも引火して……黄昏の空気は夕のものではなく、炎によって作られるものになってしまった。
 『いや……火は嫌……。熱い、怖い……! 助けてあなた、助けてあなた……!』
その火明かりの中、女神はようやく川だった場所に小さな水溜まりがあるのを見付ける。転びながらそこに浸かり、それから必死になって自分に水をかけた。
 ごうごうと風が巻き上がる音、立ち上る黒煙と肌を焼く熱。なのに芯が凍てつくほど、それら全てが恐ろしい。
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