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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
『……はい。……どうか、お気をつけて。死の淵にあった私を救い召し上げて下さった“あの方”も……またあなた様をお待ちしております』
「……そうか」
『そしてどうか──』
「……?」
『どうか、この姿はお忘れになって。清らかな真白の衣、眩い黄金。濡れ羽の髪に艶やかな紅と──きっとこの子の器が、最も美しくあった時。──だけれど、どうか必ずお二人で、あの家にお戻りになって。蜘蛛の姿をした私はここでのことは何も覚えていないかもしれないけど──待っています。ずっと待っていますから──……?』
 そうして語られる言葉と共に、少女の姿をしていた蜘蛛神は空気に溶け込むようにその姿を薄めていく。それに気付いた蜘蛛神も瞬き驚いたような顔をしたが、最後は日嗣を見上げ、何かを察したように穏やかに笑んだ。
 ようやく、還れるのだ。ようやくこの穢れの淀から解放され、今もきっと淡島で家族の無事を願い、日々を生きている蜘蛛の姿をした自分の中へと還れる。
 『……感謝致します、御令孫』
「……いや。礼を言うのは俺の方だ。必ず二人で戻る。だからあちらで、待っていてくれ」
『はい……!』
やがて神依の形を借りた女神は、日嗣が見守るなか雨に混じり、玉水となってぽつりと雲海へと消えていく。
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