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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
 ……神依ではない。
「……お前は……」
日嗣が腕の力を緩め体を離すと、やはり姿だけは神依のまま。けれど悪意も感じられず、日嗣はそのまま女の言葉を待つことにした。
 女は日嗣を窺うように瞼を持ち上げ、怒りに荒びていないことを覚るとそれでもやはりすまなさそうに、小さく口を開いた。
『……ごめんなさい。だけど、私はずっとあなた様をお待ち申し上げておりました。あなた様がこの子を追って下さるのなら……きっとここへ来てくれると、私は信じておりました。この姿なら、きっと救って下さると……。私を──私たち淡島の巫女を、きっと解放して下さると』
「巫女……?」
『……』
こくりと頷く仕草は想い人に似ている。それが少し日嗣には嬉しく思えたが、女は日嗣の感傷に気付くことなく耳に届くか届かないかほどの儚い声音で切々とそれを訴えた。
 『……私達も本当は、愛し、愛されたかったのです。この子のように』
「……神依のように?」
『そう──。遥か昔──まだ若かった私はそれを信じていました。恋を囁き、愛を誓った男神がいたのです。彼のために、私は舞や楽の稽古に没頭しました。彼がそれを喜んでくれたから。玉衣と同じように──それが正しいと、信じていたのです』
「……」
 眼差しは互いに痛みを帯びて言葉の中で交わされ、また同じように反らされる。
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