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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
 「……」
それから日嗣はしばらくの間、そのまま謝すように目を伏せ地を見つめ、全ての汚泥が流れ去るのを見届けると再びゆっくりと天を仰ぐ。
「……天つ皇御孫(すめみま)の、宣旨であるぞ──」
それは決してがなり立てるようなものではなかったが、よく通る声だった。楼閣に蠢く者達でさえ怖じ、小動物のそれに変わって見えるほど剥き出しの瞳を闇に埋(うず)め身を縮ませて、“天孫”の御言葉を待つ。
 そこに在る者や建物、理は、総じて日嗣に取って嫌悪の対象だった。男女の肉欲や神の傲慢を内包し、自身の罪の象徴のように聳えていたそれは心から忌み嫌うものだった。だが──
「……だがそれでも、お前達は私の出立を言祝いでくれた。はなむけの品を差し出してくれた。……今、穢れとして在るお前達の……高天原での姿は判らぬが。……それでもあの時、お前達の眼差しが私の背を押し、お婆様の御心を動かしてくれたのだと思う。……」
 感謝している、と目を伏せるように頭を下げ、また再び視線を戻した時には泥土の神々は皆静まり返り、各々更に身を縮ませながら目をぱちくりとさせ、柱や手刷りの間に隠れていた。
 もう何の邪気も感じられない。
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