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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
 けれども日嗣はごくごく静かに、長く息を吐き……自分でも判別のつかない感情と感覚を胸の内に収め、消え行く泥を見つめていた。
「……」
誓って、憤怒の思いで振るった剣ではなかった。ただ自らの弱きを覚り、それを祓うためだけに振るった剣だった。
 もてあましていた何かは、今は春の温水に融ける氷のように、体内で自然に巡っている気がした。
 (……もっと早くに、こうしていれば良かった)
日嗣はぽつりと思う。
 自ら背を向けて、見ないことで無いものにするのでなく、真っ正面から向き合って、本心を晒して一つ一つの想いを断ち切り、看取ってやればよかった。
 或いはそれはこの刃のように、一時女達の心を傷付けることになるかもしれないが……こんなふうに、膿を出す傷にはならなかったような気がした。虚ろだった自分の幻想に囚われることなく、真実女達が満たされる、次の恋へ送り出してやれるような気がした。
 それは傲慢で身勝手な、男の言い分かもしれない。けれど……今は何故それをしてやれなかったのだろうと、自責と後悔を抱く心もある。
 (結局俺は……女達を拒みながら、その女達に甘えていたのかもしれない)
失いかけた存在意義や足場を求めて。
 だからあの蠢くものは、この黄泉国に暴かれた昏き心そのもの──女達自身のものでもあり、神々のものでもあり、確かに日嗣自身のものでもあった。
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