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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
『いけない──そんな小汚ない衣を御召しになっているから、お顔まで歪んでしまうのです』
『こちらに来て。貴方様を惑わす女蛭(めひる)の手管は、貴方様御自らわたくし達のこの手にお仕込み下さればいいのですから』
『そう──貴方様の何もかもを、わたくし達がずっとずっと大事にお世話して差し上げますから』
『元の美しい、生きた人形にお戻りになって』
『貴方だって本当は──』
 ──御自分で、ずっとそう思っていらしたでしょう。
 「──ッ」
その粘っこく耳に残った言葉は、日嗣の奥底に残り癒えかけていた傷に唯一、深々と突き刺さった。
 それは多分、自ら求めた女神を蔑ろにし、子の命を縮め……自らが傷付かない淡島で、無様に時を遣り過ごしていた頃の。
 ──そしてその痛みを自覚した日嗣は、ついに剣の柄に手を掛ける。
「……すまない」
その一言にあらゆる想いをこめ、しかし何の躊躇も無く月読がして見せたように……また眼前の舞巫女が靡かせる五色布の軌道をなぞるように横薙ぎに刃を振るえば、女達の手は断末魔の悲鳴を上げてぼとりぼとりと地に落ち、黒い粘液の塊となって石畳に染みていった。
 或いはそれは、女達に取っては逆鱗に触れられた龍の如く暴虐の振る舞いであったかもしれない。事実、楼閣を侵し空からそれを眺めていた汚泥の神々もざわめき、その場の空気を震わせる。
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