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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
その苦しみさえも自分のものとして受け止めたかった。今度こそ、自分にこそすがりついて欲しかった。今は何もかも、彼女の全てが愛しく、恋しい──。
──しかし今まさに、台座から跳ぼうとした瞬間、
『なりませぬ』
くんっと下から袖を引かれて──日嗣は反射的に──そちらを見てしまった。
「……ッ!」
その一瞬の内に目に栄える、場違いな程に鮮やかで艶やかな、折り重なった着物の花や綾。足元はその豪奢で絢爛な彩りに埋もれ、そこから贅沢に膨らんだ袂(たもと)が伸び、細く白い腕がいくつもいくつも、自身の装束の袖や裾を引いて、まさぐっていった。
その日焼けを知らぬ手は、祖母を訪ねた時に御簾の下から見る女神や采女のもの。何とか自分の気を引こうと、この錦の着物の裾を摘まんでみせたり、楽器や玩具をつとなぞってみせたり──顔も知らない、女達の手そのものだった。
その上、口も無いのにくすくすと笑む声が聞こえて寒気がする。
「──やめろ──」
日嗣はそれを振り払おうと、声を上げて身を振るった。それは暴力的でもあったが、女達の腕はそれさえ面白がって、まるで鬼事の鬼役から逃げて遊ぶようにかわしていく。
──しかし今まさに、台座から跳ぼうとした瞬間、
『なりませぬ』
くんっと下から袖を引かれて──日嗣は反射的に──そちらを見てしまった。
「……ッ!」
その一瞬の内に目に栄える、場違いな程に鮮やかで艶やかな、折り重なった着物の花や綾。足元はその豪奢で絢爛な彩りに埋もれ、そこから贅沢に膨らんだ袂(たもと)が伸び、細く白い腕がいくつもいくつも、自身の装束の袖や裾を引いて、まさぐっていった。
その日焼けを知らぬ手は、祖母を訪ねた時に御簾の下から見る女神や采女のもの。何とか自分の気を引こうと、この錦の着物の裾を摘まんでみせたり、楽器や玩具をつとなぞってみせたり──顔も知らない、女達の手そのものだった。
その上、口も無いのにくすくすと笑む声が聞こえて寒気がする。
「──やめろ──」
日嗣はそれを振り払おうと、声を上げて身を振るった。それは暴力的でもあったが、女達の腕はそれさえ面白がって、まるで鬼事の鬼役から逃げて遊ぶようにかわしていく。

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