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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
 すると、まるでそれを合図にしたように一度──しゃあん、と天地を震わす鈴の音が鳴り響いた。
 「──な……」
それはさっき、自分が鳴らせなかったはずの音。
 その余りに鮮烈な音は、今度こそ日嗣の耳の奥まで響き──しかしざわざわと、身の毛もよだつようなおぞましい感覚を魂の深奥から喚び興させた。
 (違う)
日嗣は知らず知らず、頭を横に振る。あの神楽鈴の音ではない。音は同じでも、神依が振るったものとは音の源が違う。あの無垢な雪解け水のような、流水のものとは明らかに異なる。
 しかしそんな日嗣の想いを無視して、再びその禍(まが)つ音(ね)が鳴った。そして黄泉国の乾坤(けんこん)はその鈴の音に応え、その景色を自ら変えていく。
 天はみちみちと雲を裂き、乱杭歯のように痛々しい隙間を作ると、そこから一直線に光の矢を射掛けてきた。細い細い光……黒い甲虫の羽根を鋤(す)いたような、色素の薄い黒い光。
 そしてその鈍色の光が照らし出していくのは──黄泉の淡島。
 目覚めた日嗣が目の当たりにしたのは、まだその形を変える前の進貢の広場と……蛇のとぐろのようにしつこく、ねっとりと世界を締め上げる、粘ついた淀が渦を巻く八衢だった。
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