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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
それが起きたのは一瞬で、また収まるのも瞬きの間だった。風圧に負け閉じてしまった瞼を開けば、その先には──土器(かわらけ)の口の如く更に虚ろに広がる、暗く闇に満たされた洞穴が続いていた。
「……懐かしい口上だな」
「おう。こういうのは形式だからな。……まあ戻ってきて落ち着いたら、男同士かみさんの愚痴でのろけ合って酒でも飲もうぜ」
ややあって日嗣が口を開けば、そのいよいよの緊張を感じ取った猿彦は努めて普段通りにおどけてみせる。
それに日嗣は軽く笑い、ほんの少しその光景を思い描いた。確かに──それはとても、幸せなことかもしれなかった。
「お前は尻に敷かれていることをわざわざ自慢するのか?」
「するさ。無事に帰れたら、お前だってそうなる」
「そうか……そういうものだったのか」
「そういうもんだ。だからそうなれるように──頑張れ」
「ああ。……ありがとう」
道を譲られ、日嗣はそれだけを告げると、その友を横切る。いつからそんな純朴で清々しい言葉を紡げるようになったのか、猿彦は少女が流れ着いてからの日々を想い、その背を見送る。
「……」
しかし日嗣が進めば闇は細い女の腕のように伸び──その体を呑むと、生酔いの女が舌なめずりするようにぐにゅりと境を揺らし、その肉の裂け目を閉じた。
「……懐かしい口上だな」
「おう。こういうのは形式だからな。……まあ戻ってきて落ち着いたら、男同士かみさんの愚痴でのろけ合って酒でも飲もうぜ」
ややあって日嗣が口を開けば、そのいよいよの緊張を感じ取った猿彦は努めて普段通りにおどけてみせる。
それに日嗣は軽く笑い、ほんの少しその光景を思い描いた。確かに──それはとても、幸せなことかもしれなかった。
「お前は尻に敷かれていることをわざわざ自慢するのか?」
「するさ。無事に帰れたら、お前だってそうなる」
「そうか……そういうものだったのか」
「そういうもんだ。だからそうなれるように──頑張れ」
「ああ。……ありがとう」
道を譲られ、日嗣はそれだけを告げると、その友を横切る。いつからそんな純朴で清々しい言葉を紡げるようになったのか、猿彦は少女が流れ着いてからの日々を想い、その背を見送る。
「……」
しかし日嗣が進めば闇は細い女の腕のように伸び──その体を呑むと、生酔いの女が舌なめずりするようにぐにゅりと境を揺らし、その肉の裂け目を閉じた。

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